◆大学めざしウクライナに渡ったが......
ロジさんは家族を北東部の避難民キャンプに残して、その後、イラクへ渡り、ウクライナの労働ビザを取得。昨年4月、首都キーウに到着すると、貿易会社に職を見つけ、働き始めた。
ウクライナ人は気さくで、たくさんの友人ができた。シリア内戦の影響で中断した大学の勉強を続けたいと、キーウでの進学を目指し、語学学校にも通った。ロシア軍がウクライナに侵攻したのは、そのわずか10カ月後、今年の2月24日のことだ。
◆「避難民、子どもの犠牲、シリアに重なって映る」
西側主要国はロシアによるウクライナ侵攻を強く非難し、即座に経済制裁や資産差し押さえなどの措置を実施した。ロシアの暴挙は決して許されないし、この戦争を引き起こしたプーチン大統領はその責任を問われるべきだ。
今、多くの人びとが、ウクライナと苦境にある国民に心を寄せている。一方、戦争で日々、命が失われているのはウクライナだけではない。
ミャンマーの軍政下で弾圧される市民、アフリカ各地での地域紛争、そしてシリアでの長きにわたる内戦。命の重さは同じはずだ。過酷な状況に直面する人びとの境遇に、どれほど思いや悲しみが寄せられているだろうか。
ロシア軍によるウクライナ侵攻が始まると、国外に脱出する市民があいついだ。ロジさんはリュックひとつで乗り合いタクシーに乗り込み、30時間かけて隣国ポーランドを目指した。そこから、1週間かけてドイツの親戚の家にたどり着いた。だが安堵の気持ちになれないという。
「逃げ惑う避難民、戦闘の犠牲になる子ども……。自分にはすべてがシリアに重なって映ります」
(※本稿は毎日新聞大阪版の連載「漆黒を照らす」2022年4月19日付記事に加筆したものです)
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