◆「格差」と「すき間」いつまで放置か
「私たちは生きたい、生き延びたいというのが主張です」と右田委員は続け、「いまの患者は現場の医療関係者と力を合わせて治せる病気とするよう奮闘している。私たちの試算では、現状783億円あるという基金を十分安定的に運用することができるので、その基金の一部をぜひとも活用していただいて治療研究にも回していただきたい」と訴えた。
日本医師会副会長の今村聡委員は基金の金額や給付状況を確認したうえで、「できるだけ有効活用されることが重要」と賛意を示した。
労働者健康安全機構アスベスト疾患研究・研修センター所長の岸本卓巳委員は「より正確な診断、繊維性胸膜炎との判別、肺がんとの判別が非常に問題になりますので、ぜひそういうお金をいただいて、より正確な診断をしていきたい」「石綿肺がんの特徴的な遺伝子学的な検討など医学的な研究にも基金を利用させていただきたい」などと期待を寄せた。
ほかの委員からも次々と賛意を示す声が上がり、計10人の委員(1人欠席)のうち過半数を超える6人が賛成した。
反対意見は出なかったが、日本経済団体連合会常務理事の岩村有広委員が「個別の因果関係を問わず迅速な救済を図る、個別の被害者の救済を目的としたものという趣旨を踏まえて議論いただきたい」と注文をつけた。
かねて「すき間」や「格差」のない救済を求めてきた「家族の会」は5月11日、同省と交渉し、(1)「格差」のない療養手当と「すき間」をなくす認定基準の見直し、(2)中皮腫に対する治療研究促進のための「石綿健康被害救済基金」の活用、(3)時効救済制度の無期限延長──を訴えた。
今回の委員会でも「家族の会」は、
・発症年齢や発症前の所得、家族構成に配慮した給付の再構築に加えて、遺族年金を含む給付の新設、消費税・物価上昇への対応など給付の見直し
・「命の救済」に向けた基金の治療研究などへの活用
・肺がんなどの認定基準が労災や建設アスベスト被害の給付金制度の基準より厳しいことによる「不当な格差」の是正
・労災では対象だが、救済制度で除外されている「良性石綿胸水」の指定疾病への追加
・救済制度の対象者に実施するとされたが、関東甲信越以外放置されている個別周知の徹底
・がん対策基本法に対応した民間部門におけるピアサポート活動などの周知と支援
──などが必要と意見を提出している。
「生きたい、生き延びたい」という患者の切実な望みは、どれだけ救済制度に反映されることになるのか。今後の検討が注目される。
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