◆別の試料で“水増し”
すでに述べたように、同地裁が実施させた空気の測定では石綿は検出されず、定量下限未満だった。
ところが同地裁総務課に確認したところ、試料採取をしたのはコンクリートを破砕する「はつり作業」から2日後、切断作業から1日後(5月17日午後5時から7時ごろ)だった。石綿の飛散があっても作業中や直後ならともかく、丸1日も経過していたら建物の空調によって拡散・排気されてしまい、よほどの特殊事情がないかぎり、まず検出などされない。ふつうの分析機関の技術者なら誰でも知っていることである。
また室内の測定では、誰一人立ち入らないようにして静穏状態にして測定している。欧米では、ほうきで掃いたり、大きな扇風機のようなブロアを回しっぱなしにしてほこりを立てつつ測定(試料採取)するが、日本では採用されていない。そのため、室内を利用している際の飛散状況とかい離した測定データになってしまっているのだ。
石綿の調査・分析に詳しい専門家は「作業時に飛散していても、1日も2日も後の静穏測定では検出なんてされません。絶対知っててやってますよ。安全宣言したいだけですから」と指摘する。
法廷内で見つかった白い粉じんの分析はどうか。こちらも5月27日の発表で、410号法廷内の粉じんから石綿は不検出とされた。
だが、実際には分析できていないのだ。
じつはそのことは公表されている。5月19日に同地裁は「量が微小であるため、判定することができない」と報告を受けたことを発表している。同地裁によれば、机上に1.2平方メートル程度うっすらと白い粉じんがたい積していたが、現場で対応した職員がちり紙で拭き払ってしまった。そのため試料採取の際には「薄く白い粉が残っている部分を養生テープなどで採取するしかない状況だった」という。
それで分析できず、「天井裏のほこりを含めて、成分分析調査を続行している」と前出の発表で明かす。つまり適切な試料採取ができず、2つの試料を混合したのだ。
これらの分析では国際標準である2種類の光学顕微鏡を組み合わせた分析法「JISA1481-1」を採用していると同地裁は説明する。ところが、ここにも疑問があると前出の専門家はいう。
「この分析法では微量でも石綿の有無を判定できます。ほかの試料と混ぜるのはあり得ない。どの試料の分析結果かわからなくなってしまいますから」