◆天井裏清掃で石綿対策なし
さらに、こうも指摘する。
「微量の粉じんの分析は粒子を1粒ずつひたすら顕微鏡で観るので難しく、きちんと分析できるところは少ない。それに1試料だけでなく、何カ所も調べないと安心できないと思います」
法廷内の粉じんが「微小で判定できない」以上、多量の別の試料を混ぜたところで元の微量の試料の分析が困難になることはあっても容易になることは、人の目で観察する顕微鏡分析の特性上、あり得ない。実質的に“水増しした”天井裏にたい積したほこりを調べただけにすぎない。
天井裏のたい積粉じんは単独で分析もしており、同じく石綿「不検出」だった。これは白い粉じんが確認された場所の真上にある照明器具を取り外し、その枠や溝にたまるほこりを採取したものだという。その約40センチメートル上に石綿含有の耐火被覆があったことから直近の分析となる。
重要な試料ではあるが、これにも微量分析の難しさがつきまとう。たまたま分析したものに石綿が含まれていなかったこともあり得る。だからこそ丁寧な調査が必要なのだ。法廷内に落下したものかどうかはっきりしない天井裏の実質1カ所の試料を調べただけで石綿「なし」と判断するのは早計といわざるを得ない。空気の測定にせよ、粉じんの分析にせよ、現状では安全宣言をするだけの十分な裏付けがそろっているとは言い難い。
ところが同地裁は、粉じん発生の原因について「耐震改修の1期工事で発生した粉じん」と「日常的に発生した粉じん」が天井裏にたい積し、真上の5階における工事の振動で「照明器具の枠に設置されたすき間(排気口)から落下した可能性が高い」と結論づける。もはや石綿は無関係というわけだ。
しかも4階各法廷の天井裏に一切石綿を含む粉じんが存在しないと勝手に拡大解釈。石綿対策なしに天井裏の清掃を開始した。
日常的だったり過去の耐震補強の施工で上から落ちてくるほどの粉じん発生があるのは認めた。以前の耐震補強は部屋の端で実施されたものだが、今回は直近のうえ、石綿含有の耐火被覆がある鉄骨に直接コンクリート破砕の振動を何日も与えるものだ。より近く、より振動の大きいとみられる今回の施工「だけ」からは(おそらくは石綿を含む)粉じんが発生しないとの結論は無理が過ぎよう。
おまけに410号法廷の天井裏を実質1カ所だけ調べただけで4階の法廷すべての天井裏に石綿粉じんが一切存在しないとの判断は安全軽視も甚だしい。