北朝鮮の都市部の住民の間で、自宅でヤギ、豚、ニワトリなどを飼育するのが大流行りだ。新型コロナウイルス・パンデミックの長期化で経済活動は不信を極め、現金収入を激減させた庶民が、新たな収益源として家畜の飼育に乗り出したのだ。北部の両江道(リャンガンド)に住む取材協力者の女性に話を聞いた。(カン・ジウォン)
◆商売不振で市場から撤退する庶民
――なぜ家畜の飼育に乗り出すのですか?
市場に出る人が減り続けています。商売はあがったりなのに市場税(場所代)は払わなければならないので、多くの人が商売をあきらめているのです。それで家で家畜を飼って売ろうとする人がすごく増えました。
――どんな家畜を飼いますか?
ニワトリが基本で、主に豚、ウサギ、ヤギを飼います。ヤギは乳が出るから高値で売れる。乳を売って稼ぐ人も多く、ヤギは人気があって取り合いです。
――アパートに住む人はどうしますか?
アパートでも平屋でも飼っていますよ。今は市内のどこのアパートでも、動物と人間が一緒に住んでいるようなものです。今は夏なので、糞の匂いとハエで大変ですが、外で飼うと盗まれてしまうので、家の中で飼うのです。
――エサはどうしますか?
人もまともに食べられないので、エサの確保が一苦労です。豚には草と人糞を混ぜてやり、ヤギは外に連れ出して雑草を食べさせます。
――肉にして売るのですか?
いえ、大きくして生きたまま売ります。収入がなくなってしまったから、皆、命がけで家畜を育てています。市場は不振ですが、唯一活気があるのが家畜の売買です。
誰も彼も家畜を育てるので、肉の価格が少し下がりましたね。家畜をコメと交換する場合もあります。もう、世の中がどの方向に向かっているんだか、私にもだんだんわけが分からなくなってきました。
◆肉類の市場価格調査
参考価格として肉類の市場価格を記しておく。北朝鮮政府がコロナ感染者の発生を認めた5月12日以降、都市間の流通が強く制限されて物価が非常に不安定になっているため、4月中旬の調査の価格を記した。いずれも国産品で、ニワトリは一匹、その他は1キロ当たりの価格だ。単位は北朝鮮ウォン。1000ウォンは調査時約19.2円だった。
両江道恵山市 | 咸鏡北道A市 | |
豚肉 | 2万4000 | 2万2000 |
ヤギ肉 | 1万5000 | 1万3000 |
ウサギ肉 | 1万6000 | 1万4000 |
鶏肉 | 1万6000 | 1万4000 |
※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。
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