厚生労働省は7月28日、工作物の改修・解体時のアスベスト(石綿)調査の講習制度について検討する作業部会を再開したが、一部の調査で資格は不要との見解を事務局が示すなど、雲行きが怪しくなっている。(井部正之)
◆原発の石綿調査はいまだ素人OK
石綿調査は誰がおこなってもよい状態が長く続いており、いまだ原発でさえ素人調査OKである。その結果、ずさんな調査による見落としが多発している。2020年と2021年の石綿障害予防規則(石綿則)改正で、ようやく2023年10月から建築物や船舶の石綿調査は講習を終了した有資格者が実施することが義務づけられた。
ところが原発など工作物については資格制度が設けられておらず、このままだと原発など発電所や化学プラント、上下水道施設など工作物の石綿調査だけは素人調査が継続されることになりかねない。
もともと同省は2020年2月から工作物の調査における資格制度について検討を開始。同4月に一度報告書をまとめたが、調査対象の範囲や資格制度のあり方などまで詰め切れず、今後の課題とされていた。今回そうした部分を改めて有識者会議で議論することになった。
再開した有識者会議「建築物の解体・改修等における石綿ばく露防止対策等検討会」の「工作物に関するワーキンググループ(座長:梅崎重夫・労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所所長)」では、石綿調査の対象となる工作物の範囲と使用実態の把握、有資格者による調査の範囲、講習の教育内容などが議論された。
基本的にすべて有資格者が調査するとの前提で意見が出ていたが、事務局の同省化学物質対策課は工作物を、
(1)原発も含む発電設備やボイラー、焼却設備など調査で新たに定める工作物専用の講習修了を必要とするもの
(2)配管設備や煙突、遮音壁など建築設備に含まれ、すでに講習が始まっている「建築物石綿含有建材調査者(調査者)」で対応可能なもの、
(3)上記以外の工作物
──の3つに分類とする案を公表した。
さすがに構造が複雑な原発など発電設備は工作物専用の講習を必要とする形になっているが、(3)は調査資格を不要とした。同省が自ら一部資格なしの素人調査を継続させることを可能とする法の“抜け穴”を示したことに、委員から「裾切りか」と驚きの声が上がった。
建築物石綿含有建材調査者協会副代表理事の外山尚紀委員が「若干そこは慎重に考えるべきでないか。実際調査したことがあるが、橋梁の塗料、そういったものの調査が誰でもできてしまうというのはどうか。塗料とか不定形のものの扱いはすごく難しいので、そういったものは慎重に考えていただきたい」と反対するなど、複数の委員が慎重な検討を求めた。