ドキュメンタリー作家の久保田徹さん(26)がミャンマーで拘束されてから、27日で4週間となる。取材目的を持って観光ビザで入国したとして起訴された入国管理法違反罪について、ミャンマー国軍側の発表した久保田さんの入国日が、実際と約2週間も異なることが、友人らの調査で分かった。ミャンマーの捜査機関は強引さで知られており、今回の事件でもずさんな捜査が露呈した形だ。(ジャーナリスト・北角裕樹)
◆その日は東京で食事していたはずなのに…
久保田さんはミャンマー人を主人公にした作品を撮影するためにミャンマーを訪問した。ミャンマーの関係者によると、現地時間7月30日午後3時ごろ、最大都市ヤンゴンの南ダゴン地区の大通りで、1分程度の短時間横断幕を掲げて歩いてすぐ解散する「フラッシュモブ型デモ」を取材していたところ、直後に到着した捜査当局に拘束されたという。
久保田さんは、国軍側の主張の通り観光ビザで入国したらしいことが友人らの調査でも判明している。しかし、ここで問題となるのが彼の入国日だ。国軍側の文書での発表とゾーミントゥン報道官の記者会見では、7月1日に入国したことになっている。しかし、友人たちの調査によると、7月14日に入国しているはずだというのだ。
友人らによると、久保田さんは13日夕に成田空港から出国。この際、複数の友人が空港から電話やメッセージで連絡を受けている。また2日には東京で知人と食事を共にしており、国軍側が発表した「1日に入国」はありえないことになる。
「犯行時間」が2週間ほども違えば、日本なら無罪になってもおかしくない。どうしてこんなことが起きるのか。
1日に入国したとすれば、久保田さんが拘束された30日には、観光ビザの滞在期限の28日間が経過してオーバーステイになっているという深読みもできなくはないが、ミャンマー当局の驚くほどずさんな捜査の実態からすると、単純ミスである可能性も捨てきれない。当然ながら入国日は入管に照会をかければわかるはずだが、その手間すら惜しんだと言われても、筆者はそれほど驚かない。
◆証拠なくても起訴は茶飯事
ミャンマーでは半世紀以上続いた軍事政権の中で、裁判所は捜査当局の言いなりとなってきた。クーデターまで約5年間のアウンサンスーチー政権でも、裁判制度の改革は行われなかった。このため、捜査当局は証拠の有無にこだわらず起訴し、裁判所はそのまま有罪判決を下す。当局は日本のように証拠固めをする必要がなく、その能力が著しく低いのだ。
ミャンマーでは政治犯が逮捕されると、多くはまず軍の施設に連行され、そこで凄惨な拷問を受ける。2日間飲み物が与えられず、初めての食べ物は3日目という例を数多く聞く。棒などでひどく殴られるケースも多い。
しかし取り調べを体験した人の話を聞くと、拷問を伴う取り調べは、証拠固めに主眼が置かれているのではなく、拘束者を精神的に屈服させることや、仲間の名前を聞き出すことに長い時間が費やされているようだ。拷問で聞き出した仲間の名前から次のターゲットを狙うのが彼らの捜査手法なのだ。