fa-arrow-circle-right<北朝鮮内部>「コロナ勝利」はウソかまことか (1) 発熱者は継続発生…「PCR検査なんて知らない」 集団免疫獲得の認識広がる
◆咸鏡北道からの報告1
8月10日に新型コロナウイルス感染症の終息と勝利を宣言した金正恩政権。以降、死亡者も発熱者も公表されていない。実態はどうなのか? 連載の2回目は咸鏡北道(ハムギョンプクド)のある都市に住む取材協力者の報告。(カン・ジウォン/石丸次郎)
8月後半に状況を伝えてきたC氏は咸鏡北道のD市に住む労働者で労働党員。5月に北朝鮮当局がコロナの発生を認めた後、D市でも発熱者が急増して市全体が封鎖され外出禁止措置が長く続いた。C氏も感染したという。
これまでのアジアプレスの調査では、多くの地方都市ではコロナ感染を判定する検査が実施されておらず、発熱の有無や咳などの症状のみから判断しているのが実態だ。以下の報告におけるC氏の「感染判断」も同様である。
◆強制隔離から自己隔離へ
――金正恩氏がコロナに勝利したと宣言しました。
「D市の人たちは皆がコロナ罹ったんではないかな。私もそうですし、周りに罹らなかった人はいないと思います。ただ、幹部たちは今頃になって罹っているようです。重症化するケースは稀なようです。それでコロナを風邪のようなものだと軽く考える人が増えました」
――隔離はしていますか?
「(コロナが発生した)当初、D市は完全封鎖されました。その後は区域やアパートの地域封鎖に変わって、今回の(勝利宣言)発表以後は、自宅隔離になりました。熱や咳など風邪のような症状が出た場合、申告して自発的に他の人たちにうつらないように自己隔離しています。
自己隔離した人には、2~4キロ程のトウモロコシが支給されるんです。生活が苦しい人の中には、(偽の申告をして)自己隔離してトウモロコシをもらおうとする人もいます」
――中国との国境地域は規制を緩めないとの発表がありました。
「患者(感染者)は今も出ていますが、罹っても回復した人が多くてあまり気にしなくなりました。防疫体制も少し緩和されましたが、人民班会議を通して、『防疫規則に違反したら法的処罰する。緊張を緩めるな』と住民に通告しています。マスクは着けろと言う程度」
◆私的な他地域移動はまだ禁止
――他地域への移動はできますか?
「一般人が私的に他地域に出かけることはできません。親戚訪問や病気治療、葬儀などでは移動を承認してくれません。貿易会社や機関、企業所の仕事では移動できるようになりました。車で移動する人はマスク着用が必須で、移動目的地と会う人を記入した防疫許可証が発給されます。コロナに罹ったかどうかの履歴も必ず記載されます。ただ、他地域に出張に行く場合は、どこで誰に会ったのか、『動線確認』を続けています」
――北朝鮮では集団免疫を獲得したという判断なのでしょうか?
「当局が言っているわけではありませんが、コロナに一度罹った人はもう罹らない、免疫ができると多くの人々は認識しています。ただ防疫当局は、変異株がどんどん出現するので、以前と異なる症状が現れた人は必ず報告せよ言っています」
――ワクチン接種の計画はあるのでしょうか?
「ワクチン接種が始まるという話は聞いたことありませんね。中国から導入して打つらしいという噂はありましたが、まったくそんな動きはありません。ただ平壌の幹部連中は、全員ワクチン接種を終えたようだと言われています。正確なことは分かりませんが」
◆「外国はどうなってるの?」と逆質問
取材協力者たちからは外国のコロナの状況と対策について多くの質問を受けた。特にパンデミック下で貿易が可能なのか、他国も国境封鎖をしているのか、 出国は許されているのかという質問が多かった。中国との貿易再開を渇望する空気の反映だろう。
またワクチンについても関心が高かった。1度接種したら感染しないのか、値段はいくらなのかなどの質問が相次いだ。日韓では3回のワクチン接種が無料で実施されたと説明すると、全員が大変驚いていた。さらに、コロナで暮らしが困難になったり事業不振になったりした場合、政府や自治体による支援があると説明すると、「うらやましい」と強い関心を示した。(続く 3 >>)
※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。