北朝鮮の地方都市で食糧価格の上昇が止まらず、先行き不安から動揺の声が上がっている。新型コロナウイルス・パンデミックが始まった2020年1月以降、経済活動が強く制限されて住民の大半は現金収入を激減させた。そこに市場の食糧価格の高騰が追い打ちとなり、脆弱層の中には飢えに苦しむ人が少なくない。(石丸次郎/カン・ジウォン)
「お金もないのに食糧ばかりが高くなるので、誰もが先行きを心配している。庶民は1日2食が普通になってしまった。1食しか食べられない家も珍しくない。トウモロコシを蒸しただけの粗末なものを食べる家もある。今や3食白米を食べている家は金持ちに分類される。肉の匂いがしようものなら、『あの家はどうして金があるのか、悪いことをして稼いでいるのではないか』と近所で噂になる」
7月下旬、両江道(リャンガンド)の都市部に住む取材協力者の女性は、現在の食事事情をこのように伝えてきた。
この女性と咸鏡地北道(ハムギョンプクド)の都市部に住む協力者が8月3日に行った市場での調査によると、主食の白米価格は7100ウォン、トウモロコシは3200ウォン(ともに1キロ、以下同)で、年初に比べて白米は45%、トウモロコシは28%も上昇した。
※調査時点の1000ウォンは約16円。
なぜ、こんなに高騰したのだろうか?
◆高騰原因は供給量の不足
現時点での価格上昇の主原因は供給不足である。その理由を考えてみたい。
1. コロナ防疫のための国境封鎖で中国との貿易が激減して、食糧の商業輸入が長く止まっている。
2. 食糧流通に対する国家統制が厳格になり、農村から都市の市場に流出する量が激減した。
3. コロナで地域間の移動が強く制限され物流の停滞が著しい。
4. 秋の収穫まで国内産食糧が市場に出回ることが見込めない。
穀物の秋の作況予測の悪さも、人々の不安を大きくさせている。咸鏡北道の協同農場で長く調査を続けている協力者は次のように言う。
「5月に国内でコロナが発生して農作業が大きく滞った。それ以前に肥料不足が深刻だった。6月の小雨も痛かった。どこの農場でも秋の収穫はかなり減ると見ている。人々に飢餓の記憶がよみがえって動揺が生まれている」