拉致問題をきっかけに在日コリアンへのヘイトスビーチが横行するように。横田早紀江さんは「絶対にやめて」と発言している。大阪鶴橋駅前で情宣活動を行う差別排外主義グループ 2013年3月撮影 石丸次郎

◆乏しい独自制裁の実効性

移ろい得る国民感情なるものに忖度して採られてきた圧力重視政策を変更し、うずたかく積もった独自制裁は畳む時だと思う。

北朝鮮による核・ミサイル開発は絶対に容認できないものである。国際社会がこぞってやめろと言っているにもかかわらず金正恩政権は開発実験を続けた。それに対し、2017年に国連安保理は「史上最強」とも言われる経済制裁を科した。友好国の中国、ロシアも賛成した国際社会共同のペナルティである。

強力な国連安保理決議による制裁が科されている現状では、日本の独自制裁は、その「突出性」もほぼ失われ、実効性に乏しい象徴的なものになっている。核ミサイル開発に対しては国際社会の制裁ルールを守ればよい。独自制裁を大幅緩和してもデメリットはないだろう。

◆朝鮮学校除外という制裁

もうひとつ、実質的に拉致問題を理由にして始まった問題がある。高校の授業料無償化からの朝鮮高級学校の除外だ。

発端は2010年4月に実施予定だった「高校無償化」をめぐり、中井洽・拉致問題担当大臣(民主党)が朝鮮学校を対象から除外するよう文部科学大臣に要請したことだった。

「朝鮮学校の生徒は『制裁している国(北朝鮮)』の国民」、「拉致しているような国に金は出すな」と中井氏は要請の理由を述べている。

その後、同年11月の北朝鮮による韓国西岸の延坪島(ヨンピョンド)への砲撃事件を受けて、菅直人首相(当時)は、朝鮮学校の授業料無償化措置の審査プロセス停止を指示。2013年2月、第二次安倍政権は「朝鮮学校が適正な学校運営の要件に適合すると認めるに至らなかった」という理由で、無償化から除外した。外国人学校で除外されたのは朝鮮学校だけだった。

北朝鮮政権が拉致問題に対し不誠実だ、あるいは核・ミサイル開発を続けているという現状があるからといって、朝鮮総連を支持する人や、朝鮮学校の生徒や親をひとからげにして、政策として規制する(あるいは排除する)というのは制裁というしかない(日本政府は制裁とは認めていない)。

◆国連機関は朝鮮学校除外は不当と勧告

「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」を地でいくような朝鮮学校除外。それを正当化するのにしばしば使われた理由は「国民感情にそぐわない」であった。

国連子どもの権利委員会は2019年2月、朝鮮学校を高校無償教育の対象から外したのは不当だとして、日本政府に是正を勧告、朝鮮学校を「他の外国人学校と同等に扱うべきだ」としている。

北朝鮮政府も朝鮮総連も、不当な差別で制裁だと反発している。拉致問題の前進を考える時、除外措置を撤回しても、プラスに作用してもマイナスになることはないだろう。

なお朝鮮学校の在り方については、在日コリアンの中にも様々な批判がある。その声を紹介しつつ、朝鮮学校排除問題について書いた拙稿。

<北朝鮮を読む>朝鮮高校の授業料無償化問題(1)

<北朝鮮を読む>朝鮮高校の授業料無償化問題(2)朝鮮学校は自己変革が求められている

◆高齢家族には時間がない

この20年間、未帰還の拉致被害者と老いた親の齢だけが増え、亡くなる人が相次いでいる。

有本恵子さんの母・嘉代子さんは2020年2月3日に94歳で亡くなった。横田めぐみさんの父・滋さんは2020年6月に87歳で死去。2021年12月には田口八重子さんの兄・飯塚繁雄さんも83歳で亡くなった。現在、未帰還の拉致被害者の親で存命なのは横田早紀江さん(86)と有本明弘さん(94)だけになってしまった。

北朝鮮と拉致問題を含む協議を再開するための特効の妙案はない。オールストップ状態の現在、ポストコロナ時の協議の土台作りのために、岸田政権は独自の制裁措置の緩和に動いてほしい。

時間だけが無為に浪費されることは、もう許されない。

 

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