◆外貨難深刻で観光に期待大
中国との国境に近く、名勝白頭山(ペクトゥサン)の麓に位置する両江道(リャンガンド)の三池淵(サムジヨン)で、中国人観光客を受け入れるための設備の点検保守と従業員訓練が始まっていることが分かった。両江道に住む取材協力者が調査し9月中旬に伝えてきた。北朝鮮は新型コロナウイルスのパンデミック発生後、国境を全面封鎖して中国との貿易や観光が止まり経済難が深刻化している。中国人の観光が再開されるか注目される。(カン・ジウォン/石丸次郎)
三池淵は2016年11月に金正恩氏が世界水準の国際観光特区の建設を命じ、しばしば現地視察にも訪れた国家の重要プロジェクト。突貫工事を続け2019年12月に竣工した。観光業は国連安保理の経済制裁の対象外で、白頭山登山を目玉に中国からの観光客を呼び込んで外貨収入を得ようという目論見であった。
ところが竣工から1カ月後に中国でコロナ感染が拡大し始め、北朝鮮は即座に中国との人の往来を禁じた。これまで三池淵には一人の中国人観光客も来ることはなかった。
◆中国語とマナー教育を再開
三池淵での観光再開に向けた動きは、道(日本の都道府県にあたる)の観光局が中心となり施設の補修とサービス業務従事者の訓練の2本立てで始まっている。「ホテルや観光施設のメンテナンス工事のため、『都市建設隊』という行政組織が投入されて毎日点検作業をしている」と、協力者は言う。
接客部門には新たに人が追加配置され、本格的な教育が始まっている。
「訓練はホテルと観光施設の職員全員が参加しなければならない。中国語学習は必須で、接待員、案内員たちの接客マナーを集中的に教育するそうだ。平壌から専門教員も派遣されて来た。道の観光局長は三池淵にほとんど住み込み状態だ。間もなく国境が開かれ貿易も再開するのだろうと、両江道の人間の期待は大きい」
多くの外国人と接触することを想定してのことだろう、党の観光方針や政治学習も1日2時間ずつ行われているという。日課は、午後2時まで学習して、残りの時間は近隣の農場に動員されてジャガイモ掘りをしているという。
◆職員は配給足らず空腹状態
だが三池淵に送り込まれた人たちの暮らしはきつそうだ。協力者は次のように説明する。
「サービス部門に配置された人員には、10日分の食糧配給を出して合宿生活をさせているが、食事量が少なくてしんどいそうだ。特に平壌や道から選ばれて配置されて来た若い人たちが大変で、何とか理由をつけて故郷に帰ろうとするのだが、『退去証明書』を発給してくれず、留められている。中国の観光客が来れば金が稼げると考えて、なんとか耐えている状況だ」
※北朝鮮では職場を変わろうとする場合、当局が出す「退去証明書」必要だ。それがないと新職場は移ることもできず、配給も受けられない。