今、北朝鮮は新型コロナパンデミックと経済制裁の影響で、この十数年来で最悪の経済状況にある。金正恩政権は9月25日から10月9日にかけて7発のミサイル発射実験を行ったが、それは人民が貧窮に喘いでいる現実を承知の上でのことだ。政権は住民たちにミサイル連射をどのような説明し、住民たちはどう受け取ったのか? 北部地域に住む取材協力者に緊急インタビューした。(カン・ジウォン)
◆金正恩元帥がいる限り手出しさせないと宣伝
インタビューに応じてくれたA氏は咸鏡北道(ハムギョンプクド)に住むアジアプレスの取材協力者。一般企業の労働者で労働党員の男性だ。()内は編集部による注記。
――ミサイル発射について当局から説明がありましたか?
A はい。米国が緊張を高めているのに対抗して我われもミサイルを発射するのだと。先週の土曜日(10月8日)に職場で情勢講演があり、10日(労働党創建記念日)の行事の際も、我われの核武力が優れていると宣伝していました。帝国主義者は悪辣だが、金正恩元帥様がいる限り絶対に我われに手出しはできない、そのような信心を持たなければならないと力説していました。
――戦争が起こるかもしれないという雰囲気はありますか?
A 当局は緊張を維持し動員態勢を整えよと言っています。しかし核を持っていると言っておきながら、なぜしきりにそう強調するのかわかりません。
戦争が起こるかどうかなんて、こちらの人々は関心ありませんね。とにかく食べられないと。ミサイルを打ち続けた後に米国と会談することになった時は(2017年の緊張局面後のこと)、すぐにでも経済が良くなるかと思ったのに(そうはならなかった)。
だからミサイルを発射し、核実験をしたとしても、実際にコメが人民に与えられるわけではないのがわかっているから関心がないんです。講演者たちは、ただ熱弁を吐いて興奮していましたが、聞いている人たちは、(話が)いつ終わるのかと思っていたでしょう。
◆腹が減っては戦はできぬ
A 中国やロシアなど、どこからもコメ支援が入ってくるという話はないし、市場はお金も回らないままです。米国が制裁を解除してこそ貿易もできるのに(ミサイルを発射している)。貿易業者はうんざりしています。私も、だんだんこの国がどうなっていくのか、わからなくなりました。
核を撃ってしまえば(国が)滅びるというのに、脅せば米国がやすやすと何かくれるのではないかと期待する信心のない(政府の方針と異なる意見の)人たちがいます。そんなことはなかなか話口に出せない。流言飛語を流したとして捕まりますから。
それで、「飢え死にせずに何としても生き抜くことが愛国だ」という風に言うのです。社会主義を守るんだとしても、核より何より食う物がなければならないのに、国は与えることができないから、(人民は)自分の力で食べていくしかない、そういう揶揄です。皆、自力更生で頑張っていますよ。
◆困窮続く収穫の秋
今、収穫の秋なのに2食しか食べられない人が多いです。お金を稼げなければ食べられない。どうすれば暮らしていけるのかだけが気掛かり。上で何をしようが気にもしません。
――10月10日の党創建記念日には特別配給はありましたか?
A 就業者1人につき5日分のトウモロコシが(国営の)食糧販売所で販売されました。中国産のトウモロコシ。扶養家族の分はなかった。特殊機関(警察など治安機関)や党機関、貿易会社などでは、食用油や豚肉の特別配給を出していましたが、一般の住民には何ひとつありませんでした。
※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。