(参考写真)刈り取り後の田で稲の落穂を探す老女。2012年11月平安北道の新義州の農村にて撮影アジアプレス

<北朝鮮内部>農業はどうなっているのか?(1) 農村動員が本格化 当局は収穫物の流出を強く警戒

収穫期を迎えた各地の協同農場が緊張に包まれている。軍兵力や民兵組織を動員して畑や倉庫を警備するなど、当局は国家管理用の食糧の確保に血眼になっている。農村と外部の出入りは、農作業に動員された都市住民を除いて極度に制限され、収穫物の流出を徹底して封じ込める構えだ。(カン・ジウォン

◆夜の田畑に響く銃声 

アジアプレスでは、主食のトウモロコシ、コメ、ジャガイモなどの収穫が本格化している咸鏡北道(ハムギョンプクド)の2カ所の協同農場で、9月中旬から10月初旬にかけて取材協力者たちによる調査を行った。

今年の収穫期で特異なのは、これまでになく厳格で殺伐とした収穫物の警備だ。武装兵士まで農場に派遣するのは、これまで聞いたことがない。

調査地の一つ咸鏡北道のA農場は農場員数約500人。主にトウモロコシを栽培している。咸鏡北道では平均より若干小規模な農場だ。協力者のC氏が9月後半から現地に入って調べた。

――農場の警備が尋常でないという情報が多いが?

C 知り合いのいる農場に行くだけなのに、どこかの秘密基地のような厳しさだった。A農場には軍官(将校)2人と2個小隊が駐屯を始めた。1個小隊は農場の入口と農場に通じる道路を取り締まる検問所に配置され、残りの1個小隊は農場の警備組(除隊軍人で構成)と合同で村の中や畑を巡回している。

兵士には空砲弾2発と実弾3発ずつが渡されたそうだ。夜に外出してみると、畑は明かりで照らされ、時折銃声まで聞こえてきた。「夜間に出歩くと銃で撃たれることもあるから外出するなと農場から通報があった」と、地元の農民が言っていた。山にある個人の畑が泥棒に荒らされて、1年苦労して育てた作物が何一つ残らなかった家もあったそうだ。

軍隊が収穫物警備に配置されているのは、咸鏡北道の別の地域のB農場でも確認された。調査したのは協力者D氏。

D 周辺の軍部隊から2個小隊が派遣され、農場からは労農赤衛隊(民間武力組織)の人員を出して、武器を携行させてパトロールしている。夜間は午後7時以降に出歩くとすべて泥棒扱いされる。畑では銃声もしている。当局は獣を追い払うためだと説明しているが、今時、獣がどこにいる? 人々に恐怖心を与えるためだろう。

(参考写真)収穫した大豆を牛車に山積みにして運ぶ農村女性。2008年10月に平壌郊外の農村で撮影チャン・ジョンギル(アジアプレス)

◆農村からの収穫流出を警戒

――警備の主目的は盗難防止か?

D 暮らしがしんどいので、秋になって外部から農村に人が続々入って来ようとしているが、まず彼らを村に入れないのが第一。それから収穫物の盗みを防ぐ。そして、農村から出ていく移動者が持ち出そうとする食糧の検査を集中的に行っている。農場の畑ではなく個人の畑で穫れたトウモロコシを運びだそうとした人が、警備組に全量没収された。どこで穫れたものか証明し、賄賂まで渡してやっと取り戻したと言っていた。

あれだけ巡察して臨時の検問所まで作っているのに、農場の被害は続いているそうだ。9月中旬には、農場の畑の中でトウモロコシをもいで粒にばらして盗んでいった痕跡を発見して追跡したが、山に逃げ込んで見つからなかったそうだ。

C氏によれば、食糧15キロ以上を移動させる場合は、郡人民委員会(地方政府)の糧政課、安全局(警察)、監察課、糧穀収買所(農民保有の食糧を買い取る国の機関)の確認印が必要だが、検問所で警備組に難癖をつけられて運び出せないケースがあるという。「食糧を売って金に換えたい農民たちの不満はとても強い」とC氏、D氏は口を揃えた。

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