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◆「女性、子ども、高齢者が犠牲に」
ウクライナ南部、オデーサ近郊の町、セルヒーフカ。黒海に面したのどかな保養地を、ロシア軍のKh-22ミサイルが襲ったのは7月1日深夜のことだった。9階建てのアパートは、ミサイルの炸裂で壁面が崩落。隣接する保養施設にも着弾し、あわせて22人が死亡し、負傷者は40人近くに上った。(取材:玉本英子)
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4階に住んでいた男性、ローマン・ボシュヴァンさん(36)は、浴室で子犬を洗っていた時にミサイルが炸裂。浴室が窓から離れていたため、爆発の直撃は避けることができた。奥のエレベーターの鉄枠も爆風でひしゃげるほどの衝撃だった。 爆発後、すぐに住民の救出に向かった。階下の60代の女性は腕が引きちぎられ、のちに息絶えた。その後やってきた救助隊が運び出した子どもの遺体を見た。頭の半分がなくなっていた。 「ここは普通の住民が暮らすアパートだ。付近に軍事施設もない。犠牲者は女性、子ども、高齢者……。なぜ市民を攻撃するのか」
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ローマンさんの妻と2人の幼い子どもは、ロシア軍の侵攻後、ドイツで避難生活を送っていたため、爆発には巻き込まれずに済んだ。 「自分も家族も助かりはしたが、一緒に暮らしてきたこのアパートの住人が、たくさん亡くなったことを思うと辛くてならない」 彼は、私の前で妻に電話をかけてくれた。 画面に映る妻に「愛しているよ」と、何度も呼びかけ、スマホ越しに妻と娘にキスを交わした。
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電話を終えた彼は、しばらく押し黙ったままだった。その目には涙が浮かんでいた。 「この戦争が終わり、家を修復し、家族が再会するのが願い。ただそれだけです」
◆一瞬にして生活を断ち切られ
階段2階の住居の前では、床一面に散乱した瓦礫のなかに、食器やキリストの聖画、クマのぬいぐるみと日本の人気アニメ、セーラームーンのシールがあった。 残された一つ一つの物から、一瞬にして生活を断ち切られた人びとの悲しみと怒りが伝わってくるかのようだった。