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◆激しい砲撃で住民脱出
8月、私はウクライナ南部・ミコライウに入った。近郊にはロシア軍が迫り、連日、砲撃やミサイル攻撃にさらされている都市だ。ウクライナ軍・偵察小隊に同行し、ミコライウとヘルソンにまたがる農村地帯でロシア軍と対峙する最前線地帯を取材した。(取材:玉本英子)
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ウクライナ軍のライトバンで前線地帯に向かう。防弾ベストとヘルメットがずっしりと重い。平原に伸びる舗装道をはずれ、荒れた農道を進む。偵察小隊がいる村は、ロシア軍陣地から4キロの地点にあった。すぐ先は、制圧されたヘルソンに通じる地域だ。
◆「砲撃で農村や町、住民を疲弊させ、制圧するのが狙いだ」
激しい砲撃で村の住民はすでに脱出していた。
「ここにいた人たちが、長年かけて建てた家だ。それが次々と壊されていく」
オレグ隊長(50)が言う。
「ロシア軍は民家だけでなく、牛しかいない平地にも見境なく砲弾を撃ち込む。農村や町、そして住民を疲弊させ、制圧するのが狙いだ」
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小隊の任務は、小型のドローン(無人機)を飛ばして、前方のロシア軍の部隊配置、戦車、塹壕の位置を確認し、後方の砲兵隊に伝えることだ。
情報送信には、アメリカの実業家、イーロン・マスク氏がウクライナ支援で提供した衛星インターネットシステム「スターリンク」が使われていた。
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◆呼吸が止まったかのような村
兵士のセルゲイさん(53)は、地元ミコライウの出身。いったん退役していたものの、2月の侵攻で再び軍に戻った。故郷を守りたいとの思いからだ。
一軒家が立ち並ぶ小さな農村を、セルゲイさんと歩いた。ブロックを積み上げた家屋、花柄模様が刻まれた壁。住民がいなくなった静かな村は、まるで呼吸が止まったかのようだった。
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1週間前に砲弾が直撃した、という家は、屋根も壁も崩れ、焼け落ちていた。村を去らねばならなかった住民は、どれほどつらかったことか。