帰国後に記者会見する久保田徹さん。11月29日東京・日本記者クラブで北角裕樹撮影。

◆ミャンマーの暴力の現場「見えづらい」

久保田さんは帰国後、「ヤンゴンに到着して、街の様子があまり前と変わっていないと感じた。しかしそれ仮初の姿にすぎないとすぐにわかった」と話している。

彼は現地で暮らす人々にインタビューし、涙を流すまでの想いをしてヤンゴンに滞在し続ける人間の話を聞く。フェイスブックに投稿しただけで投獄された市民にも出会った。しかし、それに対して街が平穏であることに違和感を覚えた。「暴力や不自由が見えづらい」と久保田さんは表現する。

久保田さんは取材を重ねるうち、ミャンマー人たちが感じている恐怖感や不自由さが現れている現場を取材する必要があるという思いを強めていった。それが、厳しい弾圧によりもはや短時間しか行うことができなくなったデモの現場だった。彼はフェイスブックの匿名のアカウントからたぐっていき、30日にデモが行われるという情報を入手する。

久保田さんはデモを取材したことを「判断が甘かった。ミャンマーに取材に行ったことも、観光ビザで入国したことも間違いではないが、デモ現場に行ったことは間違いだった」と述べている。

計画段階でリスク回避のためのルールを決めて、それを徹底するべきだったと振り返っている。また、デモが終わったなら、走って現場から離れるべきだったとも語っている。なお、久保田さんは、デモの予定が当局に漏れていた可能性を指摘しているが、この点については確認のすべがない。

次回は、久保田さんが数日間滞在した警察署での出来事について解説したい。久保田さんの過去の作品が取調官の逆鱗に触れ、事態は急激に悪化していくことになる。(続く 2へ >>

北角裕樹(きたずみ・ゆうき)
ジャーナリスト、映像作家。1975年東京都生まれ。日本経済新聞記者や大阪市立中学校校長を経て、2014年にミャンマーに移住して取材を始める。短編コメディ映画『一杯のモヒンガー』監督。クーデター後の2021年4月に軍と警察の混成部隊に拘束され、一か月間収監。5月に帰国した。久保田徹さん拘束中は、解放を求める記者会見を開くなど支援活動を行った。

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