(参考写真)ずた袋を担いで街中を徘徊していた男の子。「髪が短く刈られているので孤児収容施設から逃げ出してきたのではないか」と撮影者。 金正恩時代に入った2013年9月平安南道の平城市にて撮影アジアプレス

◆もはや脱北もできなくなった…

「脱北しなかったことを人生で一番後悔しています。いつになったら私たちは人間らしく生きられるのでしょう。韓国や中国をうらやましく思わない人はいませんよ」

北朝鮮が連日ミサイル発射実験を続けていた11月中旬、北部地域に住む取材パートナーと電話がつながった。2人の子供を抱えるシングルマザーだ。ミサイル発射について意見を求めると、彼女はこう嘆いた。

彼女の自宅から数キロ先を中国との国境の川が流れる。捕まって北朝鮮に強制送還になった時の処罰の恐ろしさを考えると、子供を連れての脱北など想像もできなかった。この2年余りの間に川岸は有刺鉄線で塞がれ、近づくこともできなくなってしまった。警備が強化される前に国を出ておけばよかったと、今になって彼女は悔いている。どれほど状況は悪いのか?

◆令状なしの家宅捜索 韓ドラ見たら懲役5年

金正恩氏が世襲で権力の頂点に立って間もなく満11年になる。20代後半の若い執権者が登場した時、対外開放など新しい政策を期待する声が少なくなかった。しかし、2013年に叔父で最高実力者だった張成沢(チャン・ソンテク)氏を粛清・処刑したのを機に、社会に恐怖の空気と失望が蔓延することになった。

2018年に文在寅(ムン・ジェイン)韓国大統領との会談が実現するとムードは一変、北朝鮮の人々は平和で豊かな時代がついに到来するかと喜んだ。だが翌年に米トランプ政権との非核化協議が決裂してまた急旋回する。金政権は韓国との関係を断絶し、新型コロナウイルスの防疫を口実に国内に厳戒態勢を敷いた。

中国との国境は封鎖され、国内の地域間移動は原則禁止、人を雇ってパンを作って市場に売ったり、家で食堂を営んだりするなどの個人の経済活動は「非社会主義的だ」とみなされて、ことごとく禁じられた。都市住民は現金収入を激減させ、みるみる困窮していった。

「服装チェックやマスク着用、持ち物検査などで、道を歩いているだけでやたらと取り締まり要員が呼び止めます。携帯電話に保存してあるメッセージや写真まで見せろと言われる。令状なしの家宅捜索も当たり前になった」
と取材パートナーの女性は言う。

韓国ドラマを見ただけで懲役5年になる「反動思想文化排撃法」が2020年末に制定された。今も若者を中心に逮捕者が後を絶たないという。

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