(参考写真)農村で仕入れた穀物を都市に運ぶ女性たち。「市場に売って利ザヤを稼ぐ『テゴリクン』だ」と撮影者。2008年8月平壌市郊外の農村部で撮影チャン・ジョンギル(アジアプレス)

◆そもそも市場の穀物はどこかから?

さて、そもそも市場で売られる食糧はどこから入って来るのだろうか? 農民たちが協同農場の収穫から取り分として受け取ったものや、農場自体が現金を作るため保管していたものが市場に卸された。農場幹部や軍隊などの機関からの横流しされた穀物、輸入された外国産も流入した。

国が食糧流通を握るためには、国家管理分を増やすとともに、市場への流出を防がなくてはならない。当局は今秋、農場からの流出を徹底して取り締まった。収穫が始まる9月から軍隊を農場に配置して畑や倉庫を警備させた。農村に通じる道で荷物検査を行い穀物が見つかると没収した。

一方、市場の食糧商人に対しては、販売価格の値下げを強い、穀物の入手経路を示す証明書の提示を求めている。「将来的には市場での穀物販売を停止して『糧穀販売所』に一元化すると、11月になって当局から通告があった」と、各地の取材協力者たちは口をそろえる。

◆食糧専売は「カロリー統治」の復活

金政権が目論んでいるのは食糧流通の主導権を市場から奪還し、「国家専売制」への移行しだろうと筆者はみている。その意図は、「カロリー統治」だろう。「食わせてやるから言うことを聞け」とばかりに、主食を統制と支配の道具として活用する「糧政」の復活だ。

コロナ前、北朝鮮経済に占める市場経済の割合は50%を超えていたというのが韓国の専門家たちのおおむねの見解だ。

「個人で一生懸命稼いで暮らしている。指導者の恩恵で食べているわけではない」という意識が、この20年で庶民の間にすっかり定着した。こと暮らしに関しては、北朝鮮住民の大半は政権からの自立を果たしていたのである。

「市場は虎より恐ろしい」……金政権にはそんな危機感があるのではないか。

※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。

 

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