◆金政権の食糧専売策は信用できない
北朝鮮で主食のトウモロコシの市場価格が高騰している。アジアプレスが調査した北部地域の複数都市の市場価格は年明けと同時に2割以上も急騰し、住民たちの間で不安が大きくなっている。なぜなのか? (カン・ジウォン)
◆トウモロコシ買いだめに殺到
アジアプレスでは1月5、6両日に北部の両江道(リャンガンド)と咸鏡北道(ハムギョンプクド)の都市部で市場調査を実施した。両地域ともトウモロコシは昨年11~12月に概ね1キロ2800ウォン程度で安定していたが、年明けに3400ウォンと22%強も上昇した。一方白米の価格は6000ウォン程度だったものが5600ウォンまで値下がりしていた。なぜトウモロコシだけが値上がりしたのだろうか?
※(100円は約6400ウォン、価格はいずれも1キロ当たり)
調査した両江道居住の取材協力者は、食糧確保に対する先行き不安が広がり、安価なトウモロコシを買いだめしようとする動きが強まっているからだとして、次のように説明する。
「昨年の農業不振もあって、中国や他の国から支援が入って来ないと白米は1万ウォンまで上がるという噂が飛び交っている。住民たちは危機感を持っていて、食糧確保のために競うようにトウモロコシを買い入れている。トウモロコシは白米よりずっと安く麺にしても食べられるからだ。新年から暮らしの心配をする人が多い」
◆家庭を捨てた流浪民も 生活破綻続出で不安増大
また咸鏡北道の取材協力者は次のように伝えてきた。
「秋の収穫があったにもかかわらず食糧の値段が下がらないので、今年は大変なことになるかもしれないと皆が感じている。暮らしが破綻して行方不明になったり、家庭を捨てて流浪民になって山に入った人がいたりと、誰もが周辺で良くないことがたくさん起こっているので心配なのだ。当局は食糧の大量買いと、『流言飛語』を流す者を処罰すると騒いでいる」
◆金政権は食糧流通を強く統制
もうひとつ、人々を不安にさせているのが、政府による食糧流通への統制強化だ。金正恩政権は2019年頃から始めた国営の「糧穀販売所」(食糧販売所)の稼働を、2021年から本格化させた。
昨年の下半期、市場で概ね白米は6000ウォン、トウモロコシは3000ウォンで売られていたが、「糧穀販売所」では白米4200ウォン、トウモロコシ2200ウォンの固定価格で販売した。
ただ、自由に買えるのではなく、月1回、1人当たり5キロ程度を世帯単位で販売する方式だ。これはおよそ一週間分になる。金のない庶民は市場より安いので歓迎したが、必要量には大きく足らず、不足分を市場で購入していた。金正恩政権は、市場を抑制して「食糧専売制」への移行を目論んでいるとみられる。