◆ロシア軍が包囲、激戦のマリウポリ
ロシア軍が包囲する都市、マリウポリから決死の脱出を試みた母娘。15歳の少女が持ち出したのは、宝物にしていた日本の漫画とアニメグッズだった。漫画を心の支えにする少女を、オデーサで取材した。(玉本英子・アジアプレス)
ウクライナ南東部の港湾都市、マリウポリ。今年2月に始まったロシア軍の侵攻後、最も破壊が激しかった町の一つだ。
産婦人科病院や市民が避難する劇場にまで爆撃や砲撃が加えられ、多数が犠牲となった。ロシア軍の包囲と攻撃は3カ月近くにおよび、市街地は廃虚と化した。
◆脱出時に持ち出したのは、日本の漫画とアニメグッズ
包囲下のマリウポリから脱出し、オデーサに避難してきた母娘と出会った。
「これが私が逃げるときに持ち出したもののすべて。どれも大切な宝物」
アリーサ・ゴンチャロワさん(15)が見せてくれたのは、日本の漫画翻訳本とアニメグッズだ。脱出時、小さな手提げバッグに詰め込んだ。
好きな漫画アニメは「呪術廻戦」「ギヴン」「東京リベンジャーズ」で、絵の繊細さが魅力という。
「オハヨウゴザイマス」「イタダキマス」は、アニメで覚えた日本語だ。
◆降り注ぐ砲弾、アパートに炸裂
幼い時に父が病死。母のスヴェトラーナさん(40)が愛情を注いで育て上げた。
楽しかった日々は、ロシア軍の侵攻で暗転する。連日、市内に砲弾が降り注ぎ、防空サイレンが響き渡った。アパートにも炸裂し、建物が大きく揺れた。
「天井は崩れ、ベランダは吹き飛びました。生きていたのが奇跡」
電気、水道、ガスが止まり、隣人たちと食料を分けあった。砲撃のなか、住民が交代で枯れ木を拾いに出かけ、震える夜の寒さを焚火でしのいだ。
◆死体転がる道を走り抜け
「このまま檻(おり)のような町で死ぬしかないなら、せめて路上で死のう」 スヴェトラーナさんはそう決意し、娘と脱出を試みた。
隣人の運転する車に乗り、焼け焦げた戦車や死体が転がる道路を一気に走り抜けた。アリーサさんが目にしたのは、柱に鎖でつながれた兵士の死体だった。