岸田文雄首相が会長を務める「宏池政策研究会」(以下、岸田派)の3幹部が、2018年から20年までに合計212万円ものパーティ券収入を政治資金収支報告書(以下、収支報告書)に記載していなかった問題で、1月に刑事告発をされていたことが分かった。告発人の上脇博之神戸学院大学教授は「不記載額は氷山の一角」と指摘している。(フリージャーナリスト・鈴木祐太)
◆「しんぶん赤旗」の報道受けて2度も訂正の体たらく
告発状によると、岸田派は2018年から20年の3年間、毎年「宏池会と語る会」を東京プリンスホテルで開催し、1億5千万円以上の収入があった。パーティ券収入の内、20万円を超えて購入した企業、団体等については収支報告書にその明細を記載する義務があったにもかかわらず、記載していなかった。3年間の合計は212万円に上る。
212万円の内訳はこうだ。18年は全日電工政治連盟の30万円をはじめ計96万円分が不記載。19年は健康保険政治連盟の36万円、20年はTKC全国政経研究会の22万円、全国旅館政治連盟の26万円、日本酪農政治連盟32万円の計80万円分が不記載だった。
企業や個人がパーティ券を購入した場合、収支報告書を総務省などに提出する義務がない。政治団体が購入した場合、収支報告書に記載する義務があるため、今回のような不記載が明らかになった。つまり、企業や個人の場合、受け取った岸田派が記載しなければ発覚することは極めて稀ということだ。
一連のパーティ券収入の不記載は「しんぶん赤旗」日曜版で報じられた。岸田派については、最初に報道された後訂正を行ったが、それでも不記載があることを再び「しんぶん赤旗」が報じたところ、二度目の訂正を行った。つまり、自主的に訂正したのではなく、指摘を受けたから訂正したということだ。
◆裏金の可能性あり悪質
告発人の上脇教授は次のように厳しく指摘する。
「現総理の岸田派でも20万円超のパーティ券購入者の不記載があったとなると、自民党の派閥では不記載が当たり前になっているとみなすべきでしょう。この不記載額は、他の派閥の不記載でも指摘したようにパーティ券の売上総額に含めておらず、裏金になっている可能性があります。告発した不記載額が“氷山の一角”であれば、裏金も同様ということになりそうです。悪質な金権体質が自民党内に蔓延していると考えるべきです」
◆安倍派、茂木派、麻生派もパー券不正記載で刑事告発
パーティ券収入の不記載は、これまで安倍派(旧細田派、清和会)が細田博之衆議院議長ら、「平成研究会」(茂木派)の茂木敏光幹事長ら、「志公会」(麻生派)の麻生太郎自民党副総裁らが相次いで刑事告発されている。
派閥以外にも、麻生派の薗浦健太郎前衆議院議員が同様に、約208万円分のパーティ券収入の不記載で刑事告発され、東京地検の捜査の結果、約4900万円の不記載があったとして議員辞職している。
ここまでパーティ券収入の不記載が多いと確かに「氷山の一角」と思われても仕方ないのではないか。パーティ券に関しては企業や個人の購入や20万円以下の収入も合わせて記載するという法改正をしない限り、パーティ券購入を巡って強い疑念を有権者が抱くのは当然のことだ。だが未だ法改正に向けた動きはほぼないのが今の国会だ。
宏池会だけでなく、岸田総理自身の「政治とカネ」が週刊文春で報道されたことも記憶に新しいところだ。21年の衆院選において岸田総理自身の選挙運動収支報告書に添付された領収書270枚の内、但し書きが空白のものが98枚、宛名が空白のものが141枚あったと報じられている。
この件については、総理自身が認め再発防止を図ると記者会見で述べている。しかし、一向に再発防止の具体策は見えない。岸田総理には、パー券不正の再発防止の先頭に立って、二度と起こらないような法改正をすることを期待したい。
■ 鈴木祐太 (すずきゆうた)
1981年香川県で生まれ。岡山、大阪で育つ。大学在学中から貧困状態にある子どもたち、特に被差別部落や在日外国人の子どもたちへの支援に関わり、小学校講師、派遣社員などを経てジャーナリズム活動を始める。フロントラインプレス所属。