◆入党が約束されないなら軍に行かせる必要ない
「動員部の人によると、このご時世、暮らしが大変なので、子供を一人しか産まない家庭が多く、入隊者が非常に不足しているそうだ。それでも上部では、勉強ができる者は皆進学させよという方針だ」
調査した協力者はこのように言う。
北朝鮮では、長く男は軍隊に必ず行くという考えが支配的で、大学に進学した者も卒業後に入隊するのが当たり前だった。軍服務を終えないと労働党への入党の道が開かれないというのが一番大きな理由だ。しかし、軍入隊に対する考えも大きく変化しているという。協力者が説明する。
「最近では、入隊を避けるために息子を何とかして大学や専門学校に進学させようとする親が多い。一昨年から、軍服務を終えて除隊したのに入党できない人が大勢出ている。政府が入党基準を厳しくしたためだ。親としたら、入党できないなら無理に軍隊に行かせる必要はないと考える」
◆貧しい家庭の息子が入隊
人民軍の一般兵士の食事事情は極めて劣悪だ。新兵が栄養失調になるというのは社会常識になっている。息子・娘が心配な親たちは差し入れをしたり、間食を食べられるようお金を送ったりしていた。
だが、新型コロナウイルス・パンデミック以降、様相が変わった。経済麻痺によって都市住民の窮乏がはなはだしく、「食べられないので、軍隊に送った方がましだと考える貧乏な家庭もある」という。
前述した免除条件を満たさないものの、困窮している家庭は多い。余裕のある家庭は子供を進学させて入隊を忌避できるが、食べ物にも事欠くような家庭では、そうもいかなくないようだ。
◆人気の配置先はミサイル部隊
希望する配属先にも変化がある。最近まで人気があったのは保衛省(秘密警察)、安全省(警察)、沿岸警備隊、警務部(憲兵)だった。待遇がいいうえ、賄賂収入が見込めるからだ。今年にわかに人気が出ているのはミサイル部隊だという。
「ミサイル部隊は待遇が格段によく、金正恩が参加する 『1号行事』に関係する機会が多くて、『配慮』による贈り物が下賜されることが多いのだ。余裕のある家庭では、これらの部隊に配置されるよう『軍事動員部』に賄賂を使う」
配属先は賄賂の額によって左右されるが、決まるのは3月の後半になってからだという。
※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。