◆受け入れ開始した協同農場で起こったこと
2月に入り、協同農場で都市窮乏民の受け入れが始まった。アジアプレスでは咸鏡北道のある郡にある中規模のA農場を調査に訪れた。すでに都市住民の受け入れが始まっており、上部から農場幹部に対して、さらに志願者を増やすために進出者たちの世話するよう指示があったという。
だが、受け入れは順調とはいえないようだ。調査した協力者は説明する。
「A農場に来た都市部の人たちは、皆、まるでコチェビ(浮浪者)のようだった。布団すらまともなものを持っておらず、引越し荷物もカバンいくつかだけだった」
さらに、進出者に約束した「好待遇」も、早くも様々な問題に直面していた。まず食糧だ。
「3ヵ月分のトウモロコシを支給することになっていたが、農場には予備の穀物がまったく不足していて、なんと農場員に対し1世帯当たり5キロずつ、トウモロコシや豆、雑穀などを供出せよと要求していた」
さらに大きな問題になっているのは住居だ。進出者には住宅を与えるという約束だったが、A農場では準備ができておらず、当面は農場の公共の建物に住まわせるか、農場員の家に同居させる形で配置することにしたという。ところが…。
「進出者に、春には住居を与えるから我慢せよと伝えているが、農場員たちだって見ず知らずのコチェビ同然の進出者と同居するなんて嫌に決まっている。A農場の幹部たちは、『同居してくれたら食糧や薪を支給するから』と農民たちを説得している」
◆都市住民が最下層の農民に転籍する理由
北朝鮮では、農民はもっとも貧しく、「ノンポ」(農胞)と呼ばれて蔑まれる存在だった。農村に生まれると代々農場員になるしかなく、都市への移住はほぼ不可能。都市と農村間の移籍は「階級変更」と呼ばれるほどで、最下層に固定されている農民身分に都市住民があえて転籍するなどありえないことだった(1990年代後半の大飢饉の際には見られた)。
今回都市住民の進出が始まったのは、農村の暮らしが改善されたからではない。農場員たちは変わらず厳しい生活を強いられている。だが、現金収入を得る術を失い、「飢える恐怖」に怯える都市住民にとっては、路頭に迷うよりはベターな選択なのであろう。
なお、調査した咸鏡北道での農村移住策が全国規模で実施されているのかについては、2月14日時点で確認できてない。
※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。
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