◆ミサイル発射の一方で窮乏する民衆
北朝鮮の庶民の暮らしはさらに悪化しているようである。北部の両江道(リャンガンド)では、困窮した人々が連日、労働党や行政機関の庁舎に押しかけて食べ物を要求しているという。(カン・ジウォン)
◆現金失い困窮する都市住民
2020年1月に新型コロナウイルス・バンデミックが発生すると、金正恩政権は中国との貿易をほぼ停めるなど過剰なコロナ防疫策を採った。経済活動を極度に制限された都市部の住民は現金収入を激減させて窮乏が進み、老人世帯や病弱者などの脆弱層に飢えや病気で落命する人が発生していた。
貯えを失い家財道具を売り払うなど、都市住民の困窮はさらに進んだ。両江道の恵山(ヘサン)市に住む取材協力者は、最近の市内の様子を2月中旬に次のように伝えてきている。
「生活苦に喘ぐ人々が毎日のように洞事務所(役場)に出向いて、食糧を何とかしてくれと陳情していたが埒が明かないので、最近は労働党や人民委員会(地方政府)の庁舎にまで押しかけるようになった」
特に目立つのは高齢者の姿だという。協力者が続ける。
◆対処できずコソコソ隠れる幹部たち
「党や人民委員会などの国家機関は、老人たちが食べ物を乞うために集まる場所になっている。幹部たちはコソコソ隠れて歩いているほどだ。何も対処できないからだ。2月10日頃、恵山市の人民委員会の前で、70代のおじいさんが出勤してくる幹部たちを一人一人呼び止めて『一人暮らしをしているがこのままではで飢え死にするから食べ物をくれ』と迫って騒いだ。そのおじいさんの行動につられて、他の老人たちも大勢集まるようになって、警備員が追い返そうともみあいになった。政府は何もできないので、追い返しているのだ」
アジアプレスが咸鏡北道(ハムギョンプクド)と両江道で調べたところ、市場より安値で食糧を販売する国営の「糧食販売所」では、2月12日頃にトウモロコシを1キロ当たり2400ウォンで販売したが、割り当ては1世帯あたり7キロに過ぎなかった(市場価格は3200ウォン程度、1円は約62ウォン)。
副食や油脂分の乏しい北朝鮮では、主食のコメ、トウモロコシを4人家族で普通1カ月に50~60キロ消費する。不足分は市場で購入するわけだが、現金の乏しい貧困層には厳しい。
◆金政権は国連機関に食糧支援要請か
北朝鮮政府も、食糧問題の深刻さを認識している。2月末に、異例にも農業問題に特化して討議するために労働党中央委員会総会拡大会議を招集することを発表している。
また、韓国の東亜日報は15日、統一部の高官の話として、北朝鮮政府が世界食糧計画(WFP)に支援を要請したものの、配布の監督活動を巡って合意せず交渉は進展しなかったと報じている。
韓国の連合通信も、北朝鮮情報筋の話を引用して、南部の開城(ケソン)市で毎日数十名が餓死していると報じている。
※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。