◆走るだけでなく、キャンプ住民との交流も
主催者によると、本年度の大会には23か国から約300名が参加した。サハラーウィを除く参加者は、約80名。西サハラと関係の深いアフリカと欧州に加え、アジア、北米、オセアニアからの参加もあった。
フルマラソンに参加したイギリス人の大学研究者、フィル・ウィルコックスさんに、なぜこの大会を選んだのかを聞いた。
「ずいぶん前に、西サハラのモロッコ占領地を訪ねたことがあります。だから(モロッコの統治が及んでいない)もう一方側(サハラーウィの社会)を見たかったのです。このような機会は、なかなかありませんから」
確かに、サハラーウィ難民キャンプの存在に気づいても、滞在に至るまでの準備を個人で進めることは難しい。サハラマラソンの参加者には、サハラーウィ家庭との滞在、RASDの建国記念式典や、学校の訪問など、全1週間の日程が準備されている。サハラマラソンには、サハラーウィ難民キャンプとサハラーウィ社会を知るために広く開かれた、パッケージツアーの側面もある。
サハラーウィのジャーナリストであるアスリアさんは、こう話す。
「アフリカにおける民族自決やサハラーウィの独立をどれだけ叫んでも、すべての人には届きません。紛争や国際問題に関心のない人たちに(西サハラ問題を)伝えるためには、サハラマラソンは有効な手段のひとつだと思います」
総責任者のブラヒムさんによる事前説明会での話は、本大会ならではのものだった。
「タイムは狙わないでください。それ(目標タイムを目指して走ること)は、別の大会でどうぞ」
慣れない砂漠では無理をせず、体調管理を最優先すべしとのこと。私も今回フルマラソンを走ったが、途中で何度も歩いた。制限時間は「日没まで」。あくまでも難民キャンプを肌で感じることが目的の大会だ。5kmの部に参加して、ひたすら散歩を続けるのでもいい。
大会翌日に開かれた閉会式では、参加者はみな、晴れやかな表情をしているように見えた。きっと、世界各地に帰国した各ランナーによって、サハラーウィ社会の様子が語られていることだろう。
西サハラを取り巻く状況に変化がない限り、来年もサハラーウィ難民キャンプで、第24回サハラマラソンが開催される予定だ。
アフリカ最後の植民地 西サハラ取材報告/岩崎有一
2023年4月12日 19:15よりオンライン開催
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