◆シリアで地震被害深刻だったジィンデリス
2月6日に起きたトルコ・シリア大地震。シリア北西部アフリン近郊のジンディレスは被害が大きかった町のひとつだ。アフリン周辺はもともとクルド人が多く暮らす地域だった。5年前のトルコ軍の侵攻後、トルコの支援を受けたシリア武装諸派がクルド系組織を追い出し、支配してきた。内戦で疲弊した地域を襲った地震。現地の状況についてネット電話で住民に聞いた。(玉本英子)
◆瓦礫のなかで妻と子どもが息絶え
「地震で家が倒壊し、妻と子どもが亡くなった。絶望しかありません」
ジンディレスに住む30代のクルド人男性、モハメッドさんは涙声で話す。
「瓦礫の隙間から妻と子どもの叫び声が聞こえ、救助を求めたが誰も来てくれなかった。冬の凍えるような寒さのなか、かじかんだ自分の手で瓦礫を取り除こうとしたが、声は聞こえなくなり、息絶えました」
ジンディレスは地震の被害が甚大で、この町に援助物資が届けられるのではと推測した周辺地域の被災住民がやってきた。その多くは、内戦でアフリンに移住してきた国内避難民だったとモハメッドさんは言う。
震災で家を失った住民のために、支援団体がテントを供給したが、「国内避難民には配られたのに、私たちは後回しにされた」とモハメッドさんは憤る。家が倒壊した彼は、しばらく路上で寝泊まりし、ようやく100ドル払ってテントを購入した。
◆アフリンとりまく複雑な背景
国内避難民がアフリン一帯に移住したのには、内戦の複雑な背景がある。
私は内戦前からアフリンを幾度も取材してきた。もともとクルド人が多く、内戦後はクルド主導組織が統治。国境を接するトルコは、シリアのクルド主導組織をテロ組織とみなし、2018年にはトルコ軍が「テロ組織排除」の名目でアフリンに侵攻。トルコが後押しするシリア反体制諸派やイスラム武装組織が町を制圧した。イスラム過激派の支配を恐れ、15万人のクルド人が脱出したが、一部は逃れることができず、とどまった。
それに代わってこの地域に移住したのが、イドリブやダマスカス近郊の東グータからやってきたアラブ人の国内避難民だった。反体制派は、元の住民がクルド系組織に内通するのを警戒して厳しく監視し、拉致や拷問もあいついだ。
アサド政権に追われた反体制派が、こんどは別の地域で「支配者」となって住民を抑圧する構図となった。