◆会社側の見解は?

4月中旬に問い合わせたところ、2020年の立ち入り検査と指導の経緯について同社の担当者は「監督署に聞いたが教えてくれなかった」と明かした。車庫の吹き付け石綿が劣化してたれ下がったりしていたのかと聞くと「場所によってはですね」と一部認めたが、「素人なのでよくわからない」と言い直した。

同社は発表で空気中の石綿飛散について調べていることを認めている。その内容を尋ねると担当者は「何カ所かに測定器を付けて(調べた)。(測定結果は)規定値に満たない」と話した。

実際には建物内部における石綿飛散の規定値はないが、大気汚染防止法(大防法)の石綿製品の製造施設における敷地境界の石綿濃度基準(空気1リットルあたり10本)を「基準値」などと説明する測定業者がおり、おそらくそれには満たないとの意味合いだろう。事実確認しようとしたが、回答が得られなかった。同社の説明からも石綿がまったく検出されない状況ではなかったことが推測される。

2020年2月の指導後、同社は監督署に経過報告をしており、監督署からは毎回早く対処するよう求められたという。なぜ除去などの対策が遅れたのかも聞いたが同社から明確な答えはなかった。

石綿則第10条第1項違反は、吹き付け石綿や保温材などが(1)損傷・劣化などして、(2)石綿粉じんを発散させ、(3)労働者がばく露するおそれがある──との3つの要件をすべて満たす必要がある。事前調査や施工時の対策を定めた義務に比べ、構成要件が多く、それだけ送検のハードルは高い。

しかも現状では、建物の通常使用時における石綿調査や空気中の石綿濃度測定の義務がないうえ、吹き付け石綿などの損傷・劣化を判断する統一的な基準も法令上位置づけがない。(屋内含め)空気中の石綿濃度基準も存在しない。

そもそも吹き付け材があっても石綿含有の有無が確認されない。また石綿含有だったとしても飛散の有無を調べる空気中の石綿濃度測定を定期的におこなう義務もないことから飛散やばく露のリスクが把握もされずに放置されていることが珍しくないというのが実態だ。

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