<北朝鮮内部調査>地方で飢饉の様相「5月に入り飢えと病気で大勢死んでいる」(1) 国家保有食糧が払底か
北朝鮮の地方都市で栄養失調や病気で命を落とす人が増えている中、強盗などの凶悪犯罪や、老親や子供を捨てたり放置したりする事例が多発していることが分かった。北部の両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)市の状況を報告する。現地に住む3人の取材協力者が伝えてきた情報を整理した。(カン・ジウォン/石丸次郎)
1990年代後半の大飢饉の際、犯罪の増加や、子供と老人の扶養を放棄して捨ててしまう惨い現象は、北朝鮮全国で発生していた。食糧配給が途絶えた上、現金が尽き家財も失って、食べ物を手に入れることが困難になった人たちによる、窮余の選択であった。
2000年以降、飢餓の蔓延は徐々に収束に向かい、餓死者やコチェビ(浮浪者)の数も減っていった。しかし今、地方都市で90年代を彷彿とさせるような人道危機が発生している。
以下は、両江道の取材協力者3人が、5月9日から26日の間に報告してきた内容をまとめたものである。3人との連絡には、搬入してある中国の携帯電話を使った。( )内は編集部による補足。
◆犯罪増加
強盗事件がたくさん起こっています。〇〇地区の女性同盟委員長の甥が(5月中旬の)夕方に自転車に乗っていて強盗に遭い、石で頭を殴られる事件がありました。(今も)意識を失ったままで、自転車と履いていた靴まで盗んで逃げたそうです(被害者のその後の安否は不明)。
××地区のある平屋の家で、真昼に水を飲ませてほしいと訪ねてきた者が刃物で(家人を)脅して録画機を持って逃げた事件がありました。最近強盗が多くて、(誰かが訪ねてきても)ドアを開けるのが怖いです。裕福な家が狙わることが多いですね。党幹部の家に泥棒が入って、こん棒で(殴って)気絶させ米を盗んで逃げた事件が数日前(5月中旬)にありました。
安全部(警察)の機動隊が毎日のように路地を回って、歩いている人を取り締まっています。アパートの警備を強化しろと言っていますが、死ぬ気で飛びかかって来る人間に対し、どうせよというのでしょうか。人々は時間ができれば山に行って食べられるものを掘ろうと必死です。
5月7日に洞事務所(町役場のようなもの)で、生活が厳しい家にトウモロコシを2キロずつ支給しましたが、うちの人民班では苦しんでいる世帯が10近くあるのに、2世帯にしか渡せなかった。それだけでは到底足りません。人々には悪気しか残っていなくて、あちこちで喧嘩沙汰も多く、貸した金を返してもらいに行って(もめて)、泣いたり喚いたりして町内が騒がしいです。
少しちゃんと食べている家では、(周囲の)顔色を伺うほどです。心配が多いです。農村では、まだ小さなままのジャガイモを掘って盗むので、早くも畑の警備に立つそうです。