◆最高綱領に「命懸けで絶対忠誠、絶対服従」を明記
私が調べた限り、「白頭の血統」という用語の初出は2013年の6月。「党の唯一的領導体系確立の10大原則」(10大原則)という文書に現れた。これは、正日氏が死亡して3代目の統治者になったばかりの正恩氏に対し、全国民、全組織が命懸けで絶対忠誠、絶対服従することを求める内容で、労働党の最上位の綱領である。
この金正恩版「10大原則」には、権力世襲を永続化させていく意思と野望が刻まれていた。その一部を抜粋しよう。
「党の唯一的領導体系を築く事業を絶えず深化させ、代を継いで続けていかなければならない」
「我が党と革命の命脈を白頭の血統で永遠に保ち、主体の革命伝統を絶え間なく継承発展させ、その純潔性を徹底的に固守しなければならない」
当時、この文言を見た大阪在住で平壌出身の脱北者は、驚きと失望を隠さなかった。いわく「いくら独裁でも、『血統』『純潔性』などという社会主義にあるまじき言葉を使うなんて世も末だ」
現時点では「ジュエ」が後継候補なのかを判断する材料はない。年端の行かぬ娘に脚光を浴びさせたのは、「金王朝」の跡を継ぐ次世代の存在を、国の内外に強く印象付けるのが目的だったのではないだろうか。
血統による支配を永遠に続けることを企む金正恩氏が、そのプロセスを、時間をかけて可視化する作業に入った。私はそう見ている。(石丸次郎)
※2月28日付け毎日新聞大阪版に寄稿したコラムを大幅に加筆修正しました。
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