◆環境省はマニュアルから除外
空気中を浮遊する石綿の測定は、電動ポンプで空気を引き込みフィルター(ろ紙)に吸着させて、そのフィルターを顕微鏡で観察している。問題の位相差・分散顕微鏡法は顕微鏡で調べる際に使う手法だ。
小坂氏によれば、石綿が吸着したフィルターをスライドグラスに載せて、石綿の種類ごとに特定の浸液を垂らしてカバーガラスで覆うと繊維が浸液中に浮いた状態になって発色し、石綿を顕微鏡で計数できる。ところが問題の「位相差・分散顕微鏡法」では前処理で使う有機溶剤・アセトンによる蒸着と有機繊維を除去する「低温灰化」という熱処理により、石綿繊維がスライドグラスに密着して浸液がその下に入らず、発色しなくなってしまうという。
実証実験でもクリソタイル(白石綿)4.3%とアモサイト(茶石綿)0.4%を含む石綿含有スレート板の切断では、集じん「なし」の場合に石綿以外の繊維も含む可能性のある「総繊維数濃度」が空気1ccあたり654本ないし329本だった。ところがその中に含まれていた白石綿は同17本ないし13本だったが、茶石綿はなぜか毎回「不検出」である。いくら含有率が0.4%と低いといっても、電動工具で切断して飛散しないのは考えられない。
前出・小坂氏も「飛散しやすい茶石綿が出ないのはあり得ない」と指摘する。
白石綿0.8%を含む石綿含有塗材の研磨はく離実験でも、総繊維で同25本ないし14本検出していても、白石綿が「不検出」であり、同様に見落としている可能性がある。
この分析法についてはかねて専門家から細い石綿繊維が計測できないことが論文などで指摘されてきた。そして環境省の委託調査でも石綿濃度を過小評価することが裏付けられた。その結果、同省は2010月6月以降、「微細なアスベストを精度良く計測しにくい」と空気中の石綿測定を解説したマニュアルから除外して、使用しないよう求めている。
「よっぽど太い繊維で浮きがあったりすればたまたま見えるということはあるでしょうが、細い繊維は軒並み見えなくなる。いまどき分散染色法を使うとすれば、石綿飛散を隠す目的しか考えられません」(小坂氏)
国による実証実験は“悪徳業者御用達”の分析法により、石綿濃度を10~100分の1に過小評価されたわけだ。実際にはもっと高濃度の飛散だった可能性が高い。しかも電動工具の使用で大量に発生する細い石綿繊維が見落とされているとすれば、国が強調する集じん機使用の効果自体に疑問符がつく。空気中の石綿濃度をより正確に調べることのできる走査電子顕微鏡(SEM)もごく普通に使われているのに、なぜあえて使わなかったのか。国によるデータ偽装を疑われても仕方あるまい。