◆作業者の保護強化が必要
今回の実証実験では、吹き付け石綿並みの高濃度飛散・ばく露する作業に本来必要な装備なしに作業させている実態、すなわち規制の不備が裏付けられたといえよう。幅約2メートル、高さ2.5メートルの隔離内の実験ではあるが、狭い屋内作業ではそうした高濃度ばく露が起きているということだ。
同省化学物質対策課は「最適な作業を選べるようにするということで全体の安全は底上げされる」「湿潤と同等以上の措置として見直す」などとして、「規制緩和ではない」と強調する。
だが、少なくとも現状では石綿含有けい酸カルシウム板第1種と石綿含有仕上げ塗材の切断・破砕作業では、現状は「隔離+常時湿潤」のうえで集じん機付き電動工具を使うことが義務づけられている。そのため「常時湿潤」が不要となり、実質的には規制緩和である。
石綿測定・分析の専門家である東京労働安全衛生センターの外山尚紀氏(労働安全衛生コンサルタント)は「集じん装置による吸じんしながらの作業は、必要性がある場合があり否定はしないが、可能な限り従来の工法である破砕せずに除去することと湿潤化をおこなうべきです。湿潤できない場合についてのみ、(湿潤なしの作業は)認めるべきである。実証試験では、かなり高濃度の石綿が発生していることから、石綿含有成形品(レベル3)の作業における保護具の性能を上げることも検討すべきだ」と指摘する。
前出・分析機関の専門家は「電動工具といっしょに使う集じん機なんておもちゃみたいなもんで、フードがちょっとずれたらすごい飛散しますし、(石綿を除去する)高性能(HEPA)フィルターもすぐ目詰まりします。あまりに何度も交換しなくてはならないので、施工側が(吹き付け石綿の除去と同等の)負圧除じん装置の設置を申し出たこと事例もあります」と管理の重要性を訴える。
外山氏も「集じん装置は吸じん性能が十分にあることを担保するために、規格(構造、風量などの性能)を示すべきだ。またスモークテスターなどによって風量が十分であることを現場で使用時に確認し、排気が清浄であることも一定時間ごとにデジタル粉じん計などで確認し、記録を残す必要がある」と提言する。
こうした専門家の求める対策は労働者らのばく露を減らし、外部への飛散を防ぐために当然必要だろう。