◆求められる規制・対策の抜本強化

すでに述べたように吹き付け石綿と同様のばく露濃度であれば、本来ならそれと同等の飛散・ばく露防止措置が必要のはずだ。ところが厚労省は「今回の見直しの対象外」として無視しようとしている。

イギリスやアメリカ、オーストラリア、韓国などでは、今回のような石綿スレートのような成形品であっても、切断・破砕作業では吹き付け石綿の除去と同様の飛散・ばく露防止措置が義務づけられている。とくに労働者などのばく露防止対策で防護服の使用を義務づけていないのは先進国では考えられない。米軍基地内の石綿除去なども請け負う老舗の除去業者はこう呆れる。

「米軍基地内では石綿スレートなどレベル3(法令上の石綿含有成形品)の除去でも日本の吹き付け石綿の除去と同様に隔離養生や負圧除じんが義務づけです。もちろん加圧式の防じんマスクに防護服も着用です。さらに作業時はつねに石綿濃度も測定して、すぐその場で測定値が示され、場合によっては作業のやり方を変えたりもします。日本では規制は作っても管理・監視がないからいまでも石綿スレートなんて湿潤もしないでみんな破砕してます。本当に正直者がバカをみる状況がまったく変わってない。うちはもう米軍の仕事中心にシフトしてます」

米軍基地内の石綿除去は日本の「思いやり予算」でまかなわれている。日本国内でも米軍基地内ではアメリカの規制で対策が講じられ、その外では先進国というにはあまりにもお粗末な現実がまかりとおっている。

5月中旬、都内の再開発現場で屋根の石綿スレートが違法解体されていた。自治体は再発防止を求める形だけの指導をするだけ。孫請けあるいはさらに下層とみられる施工業者の若い責任者に違法な破砕作業だったことを指摘すると「(割らずに除去するのは)絶対無理ですよ。できるってんなら自分でやってみればいい!」と反論された。

仮に適正な金額で発注されていたとしても、重層下請け構造により現場に適切な費用と工期が確保されなければ、規制をしても絵に描いた餅でしかない。解体費用が100%公費でまかなわれる再開発事業ですらこのありさまなのだ。

今回の“規制緩和”で労働者らの石綿ばく露をむしろ増加させ、被害者を増やす可能性がある。何度も指摘していることだが、規制・対策の抜本改正が必要だ。同時にそれが実現できる体制の整備も不可欠だ。現場の労働者らはこれまで同様“使い捨て”なのか。

【関連資料】電動工具による切断・研磨時におけるアスベスト濃度のまとめや関連資料

 

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