大荷物を背負って農道を歩く女性。3年間の「コロナ鎖国」による経済混乱を経て、北朝鮮住民の困窮はピークに達している。写真は2021年7月に中国側から撮影アジアプレス。

北朝鮮では4月以降、栄養失調で死亡する人が増加しているが、苦しい生活に絶望して自ら命を絶ったり一家心中したりする事件も頻発している。金正恩政権は、餓死や自殺に関する情報が拡散しないよう神経を尖らせ、流布させる行為の取り締まりに乗り出し処罰まで科していることが分かった。北部地域の複数の取材協力者が伝えてきた。(カン・ジウォン)

◆各地で後絶たぬ自殺事件

「自殺、心中事件が後を絶たない…」

国内の取材協力者たちは6月に入って以降の身近な状況について、こう口を揃える。

「私の人民班にも飢えて死んだ人がいるし、アヘンを服用して自殺した人もいる。それで空き家が3軒生じたが、当局はその住居をホームレスに与えると言っている」(6月後半、両江道(リャガンド)の取材協力者A氏)

「7月初めに同じ人民班に一人で住む男性がアヘンを飲んで自殺した。目を覚まさないまま栄養失調で死んだのだそうだ。この人は火葬するお金もなく身寄りもいなかったため、葬式もせずに葬った」(7月初旬、咸鏡北道(ハムギョンプクド)の会寧(フェリョン)市の協力者B氏)

※人民班とは最末端の行政組織のことで、地区ごとに20~30世帯で構成。人民班長は町役場に相当する洞事務所からの指示を伝達し、住民の動向を細部まで把握する役割を担う。

◆自殺はアヘン服用が多い

北朝鮮では自殺や心中を図る人たちは、どのような手段を選択するのだろうか?

「自殺は薬物を飲んで死ぬのがほとんどで、アヘンを使うことが多い。苦痛もなく寝ながらにして死ねるから」と両江道の協力者A氏は言う。

B氏も同様に、「自殺はどこかで水に飛び込んだり、首を吊ったりするのは稀で、ほとんどはアヘンを飲んでそのまま眠ったり、殺鼠剤を使う。他の地域でも自殺は多いそうだが、移動が容易ではないので正確なことはわからない」という。

北朝鮮では、ケシ由来の麻薬であるアヘンは、日常的に薬品として用いられており入手が容易だ。

◆餓死と自殺情報を徹底して統制

一方、金正恩政権は餓死と自殺事件の情報が拡散しないように神経を尖らせ、緘口令を徹底させている。A氏が次のように説明する。

「餓死や自殺などの良くない話は、それが事実かどうかに関係なく『流言飛語』だ。デマを飛ばしたとみなして処罰しているので、皆、口にすることに慎重になり、知り合い同士では話しても、市場など人が集まる所では話さないようにしている。うっかりしゃべった人が罰金刑や『労働鍛錬刑』まで科せられている」

※労働鍛錬刑
「労働鍛錬隊」とは、社会秩序を乱した、当局の統制に従わなかったと見なされた者、軽微な罪を犯した者を、司法手続きなしで収容して1年以下の強制労働に就かせる「短期強制労働キャンプ」のこと。全国の市・郡にあり保安署(警察)が管理する。

★新着記事