◆石綿飛散を“隠ぺい”か
そしてもう1つの問題である。これはさらに重大なのだが、市が前出の“ストーリー”を利用して、市場で働く人たちや利用者に石綿を吸わせた場面が過去にいくつもあったことを“隠ぺい”したことだ。
前出の専門家が指摘したように「本当に石綿を含む建材が落下してきたときの空気じゃないのがそもそも間違い」なのである。石綿が飛散するタイミングで測定がされていないため、発表データはあくまで良好な状態の測定でしかない。そして「建材が落下」と言及しているのは、この市場で吹き付け材の落下事故が相次いでいることを指す。
市の発表資料を調べると、過去1年半だけでも吹き付け材が脱落して落下する事故が3回起きるなど頻発している。発表時の写真では吹き付け材が高さ5メートルから床に叩きつけられ粉々になっており、明らかに石綿粉じんが飛散したはずだ。今回の問題が発覚するきっかけとなった4月の火災も同様である。市は吹き付け石綿の約1万3780平方メートル(26%)で劣化がひどいことを記者レクで聞かれて認めている。
吹き付け石綿はもろく、飛散しやすいため、もっとも危険性が高いとされる。実際に吹き付け石綿がむき出しになっている場所で働いていたオフィスワーカーなど、石綿を取り扱うことのない職業の人びとが中皮腫などを発症している。そのうち労災認定を受けた人が2021年度までに計182人(建設業の事務など除く)に上ることが国の資料を精査した結果、明らかになっている。
そうした有害性の高さから、労働者保護を目的とした労働安全衛生法(安衛法)の石綿障害予防規則(石綿則)では、吹き付け石綿が劣化・損傷し、石綿などの粉じんを飛散させて、労働者が吸ってしまうおそれがある場合、除去や囲い込みなどの対策を講じるよう事業者に義務づけている(2005年7月の施行時から存在。2014年3月改正で保温材や断熱材など追加)。共用廊下に吹き付け石綿がある場合には建物貸与者にも同様の義務がある。損傷・劣化した吹き付け石綿がある場所での作業はそれほど危険なのである。
2006年8月の石綿則改正(同9月施行)により、吹き付け材が損傷・劣化してばく露しかねない場所で労働者を働かせる場合、専用の防じんマスクや防護服の着用が義務づけられた。つまり、吹き付け材の3割近くが劣化し落下が相次ぐ状況であれば、本来なら市場西棟にいる人たちは除去作業員と同じように、専用の防じんマスクや防護服を着用して働く必要があったことになる。
筆者の取材に対し、市は吹き付け材の落下時や火災時における石綿飛散の可能性が高いことを認めた。
さらに市は(当時石綿含有がわからなかったため)適切な対策なしに吹き付け材を除去する工事が複数あったことを認めた。詳細な内容や件数は「2006年以降、2桁超えると思う。詳細は調査中」というが、そうした工事の際にも石綿飛散はあったはずだ。市もそれを認める。
こうした状況は上記・石綿則の建物管理義務(第10条)違反の疑いがある。市に尋ねたところ、西野田労働基準監督署から「除去するように指導されている」と認めた。また監督署からは不適正施工がどれだけあったのか報告するよう指示されているという。