◆「新3種」も未調査で放置
次に2008年以降に吹き付け材の再分析をしなかった問題も“隠ぺい”していた。 石綿は全部で6種類あるが、2006年に市が採用した日本独特の分析法「JISA1481」では調べる対象がクロシドライト(青石綿)、アモサイト(茶石綿)、クリソタイル(白石綿)の3種類だけだった。商業利用されたのはこの3種類といわれていたことが理由という。 だが、実際にはトレモライト、アクチノライト、アンソフィライトの3種類の石綿も使用されていた。そのことが2008年1月に読売新聞で大きく報じられ、これら「新3種」の存在がよく知られるようになった。これを受けて同6月にJIS分析法が改正。新3種も分析対象に追加された。 その結果、全国で新3種の分析ラッシュが起きた。その際、青石綿、茶石綿、白石綿の「旧3種」も含めて改めて分析したところ、新3種だけでなく、旧3種の見落としが見つかる事例も相次いだ。 2008年2月と7月に厚労省が新3種を調べていない場合は分析し直すよう通知した。筆者も同9月に旧3種も含めた石綿の見落としが多数の自治体で相次ぐ状況を『日経エコロジー』で報じ、とくに大阪府教育委員会が再調査を新3種に限って実施しようとしていることを批判した。旧3種も含めて分析し直すことで過去の見落としが明らかになれば、改めて対策を講じるなどしてそれ以降の石綿ばく露を避けることができるからだ。 同じことが大阪市にもいえる。ところが市は再分析をおこたった。 当時、市環境科学研究所(現・環境科学研究センター=環科研)は「2006年度までにアスベスト分析を実施し含有なしと判定した試料について、分析データの再度点検を行い、トレモライト等3種類のアスベストについても含有していないことを確認している」との見解を示した。これを受けて、市の市有施設対策部会は「再調査の必要はない」と通知。その結果、中央卸売市場においても再調査は不要と判断した。 市環科研による当時の判断が間違っていたことは、旧3種の青石綿や白石綿、そして新3種のトレモライトやアクチノライトが基準を超えて検出されている事実が裏付けている。当時市が旧3種も含めて再分析して石綿を検出していれば、その後15年間における2桁に上る、件数すら明らかにされていない不適正施工などによるばく露を防ぐことができたはずだ。 2008年に再分析不要と見解を出したのは(実際に石綿が検出されており)、いまからすれば間違っていたのではないかと市環科研に問うたところ、「当時はそういう判断をしたとしかいえない」と繰り返すのみだった。 国の通知を無視して、本来実施すべき再分析をおこたって、施設の労働者や利用者らに15年にわたって石綿を吸わせた責任は重い。市はそうした落ち度も含めて経緯を発表などで説明する義務があったはずだ。ところが発表で“隠ぺい”した。 筆者の取材に市は「(記者レクで)経緯を話したかわからない。(記者から)聞かれてはいない」とあいまいに答えた。発表資料にも含まれておらず、隠ぺいではないかとの指摘に対して、市は「隠そうというつもりはない。(発表に)どこまで盛り込むかでそぎ落としてしまった」と釈明した。