◆石綿見落としの原因究明を放置

最後になにより許しがたいのは、市が石綿見落としの原因究明をしていないことを“隠ぺい”して、あたかも適切に実施したかのように説明していることだ。 市は先に述べたような試料採取の方法や分析技術の向上など3つを挙げ、2006年と今回の調査で分析結果に違いが出た原因を不明とする。しかし実際には原因究明といえるようなことは何もしていないのだ。 市場側でやったのは、環科研に分析結果の違いについて意見を求めたことと過去の通知やマニュアルを調べて試料採取方法の違いを見つけただけだ。 前出の(1)と(3)は石綿調査や分析の専門家数名に聞いたところ、「(分析結果の違いに)無関係ではないか」と疑問視する。筆者も同意見だ。そして、そうした事実関係は現場を再調査すれば完全にとまではいかないが、かなりの部分がわかるというのが専門家の見解だ。 たとえば(1)で貫通採取していなかった件で分析結果に違いが出るのは、上層と下層で吹き付け材が異なる場合などである。専門家は「以前(下地まで)貫通採取してないなら、残った部分を採取し直して分析すればはっきりする」と指摘した。 また(3)だが、2006年調査で採取した箇所付近も含む35検体すべてから今回石綿を検出していることからも、「吹き付けひる石でクリソタイルが3~4%も含まれていれば、意図的に石綿を入れた製品でしょう。石綿のばらつきはある程度はあるでしょうが、さすがに石綿不検出はあり得ない」と専門家は口をそろえた。石綿の偏在や一部に石綿を含まない製品があったとは考えにくい。 これについても「2006年に採取した箇所の隣接箇所を採取し直して分析して石綿が検出されれば、まったく同じ試料ではないので断言まではできないが、おそらく偏在の問題ではないことがわかるはずです」(前出・専門家)という。 2008年に同様の問題が起きた際、東京都練馬区はある小学校で「二重吹き」で吹き付け石綿が二重になっていて、当初適切に貫通採取できていなかったことを議会で明らかにしている。またほかの施設は二重吹きでなかったことも報告している。 大阪市に確認してみると、「層が分かれているとか、そういうことではなかったと思う」というから、やはり二重吹きではなさそうだ。それが事実なら(1)は無関係であり、原因の1つとして挙げられているのはおかしいだろう。そう指摘すると「反論できない」と認めた。 いずれにせよ、二重吹きか否かもきちんと調べておらず、貫通採取していなかった部分の再分析など、調べればわかる程度の原因究明すら実際にはしていなかった。その事実を発表で説明もしていない。 しかも市の環科研に確認したところ、分析結果に違いが生じた原因として市場側に示したのは(2)の分析技術・精度の向上だけであり、(1)と(3)については「市場側が出してきたもの」だと説明した。つまり市の内部でも見解が食い違っていることになる。 今回の問題は、これまで過去の分析から「石綿なし」とされていたところが実際には石綿含有だったというものだ。今回市は市場西棟からは石綿が検出されたと公表したが、管理棟と東棟の吹き付け材は改めて分析し「石綿なし」としている。 市は今回の分析は適正だというのだが、原因究明も検証もないまま「今回は大丈夫」と説明されて、いったい誰が信用できるのか。そう指摘したところ、明確な回答はなかった。 これまで取り上げてきた大阪市における石綿見落とし“事件”にまつわるおかしな対応ぶりは、いずれもその原因や市の責任にかかわる内容である。そうした重大事項を発表から省き、聞かれない限りあえていわないとの姿勢は、実質的な“隠ぺい”工作ではないか。そう批判したところ、8月3日の訂正発表で一部の経緯を資料に追加した。しかし市と環科研から原因究明について前向きな返答はない。 石綿の見落としにより2006年以降、17年間にわたって施設の労働者や利用者らをばく露させたことはきわめて重大だ。まして当時“分析ミス”したのは市の環科研である。市と環科研にはきちんと原因究明をして事実関係を明らかにするとともに、それを石綿ばく露した可能性のある人びとに説明する責任があるはずだ。 【関連写真】大阪市・中央卸売市場本場西棟でアスベスト含有吹き付け材が火災や落下ではく離したようす

 

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