◆私文書偽造罪・同行使罪及び収支報告書虚偽記入罪で大阪地検に告発
今年4月の統一地方選挙を機に政界を引退した松井一郎氏(前大阪市長、日本維新の会前代表)が代表を務める政治団体「松心会」が、元会計責任者に許諾を得ず勝手に政治資金収支報告書(以下、収支報告書)の誓約書に署名・捺印をしていた問題で、松井一郎氏ら2人が私文書偽造罪や虚偽記入罪などで、5月に大阪地検に刑事告発されていたことが分かった。(フリージャーナリスト・鈴木祐太)
◆無断で会計責任者の署名・捺印続ける
刑事告発したのは、神戸学院大学法学部教授の上脇博之氏。
告発状によると、会計責任者Aさんは松井一郎氏の父親である良夫氏の代からの長年の支援者だった縁で「松心会」の会計責任者を引き受けていた。しかし、松井一郎氏が橋下徹氏らと「大阪維新の会」を立ち上げ自民党を離党したことを契機に支援をやめ、会計責任者を辞めた認識でいた。大阪維新の会の発足は2011年、つまり12年も前のことである。
しかしである。現在、インターネット上で公開されている「松心会」の収支報告書の表紙には、その会計責任者であるAさんの名前が記載されており、さらに記載内容に虚偽がないかを宣誓する「宣誓書」の欄には、Aさんの署名・捺印がされているのだ。
会計責任者Aさんは、この問題をスクープした週刊ポストの取材に対して「松心会の会計責任者はすでに辞めたはずだ」と答えた上で「ハンコは預けたままになっていたもので、署名は事務所が代筆したものでしょう。こちらは全く知りませんから」と回答している。
◆「政治資金規正法上の問題ない」とあきれた回答
この報道に対して松井事務所は「署名・捺印については、松心会の事務職員が20年も前から代筆して捺印してきました。その際にAさんに逐一確認せず続けていました。政治資金規正法上の問題はないと考えています」と週刊ポストに回答している。
私が松井一郎氏の事務所に公式サイトを通じて質問をしたところ、期限までに回答はなかった。
この問題を告発した上脇教授は次のように憤る。
「そもそも会計責任者は政治団体の政治資金の収入・支出について会計帳簿を作成して管理する責任者です。だからこそ、その会計帳簿に基づき会計責任者は収支報告書を作成する義務を果たせるわけです。にもかかわらず、松心会の松井一郎代表は、その会計責任者が事務所に出入りせず、会計帳簿を作成していないにもかかわらず、代わりの会計責任者を任命しないまま、事務所の職員と共謀して勝手に収支報告書を作成し署名・押印したことになります。
Aさんが嘘をついているとは思えませんし、松井事務所も勝手に署名・押印したことを認めていました。遵法精神に欠け極めて悪質な犯罪ですから、私はスクープ報道後の5月下旬に私文書偽造罪・同行使罪及び収支報告書虚偽記入罪で大阪地検に松井代表ともう一人(氏名不詳)を告発しました。」
◆維新の「身を切る改革」とは何なのか?
大阪府選挙管理委員会に訂正願いに関して情報公開したところ、5月16日付けで「松心会」の会計責任者の変更をしていたことが公開された資料から分かった。週刊ポストの報道後、大阪府選挙管理委員会に「松心会」から出された訂正願いは、会計責任者の変更のみだったということも判明した。これは、「松心会」が自民党を離党してからA氏の許可を得ずに捺印をしていたことについては修正する必要がないという認識をしているということを意味する。
前述の上脇教授は訂正が会計責任者のみだったことについて、次のように述べた。
「過去の収支報告書には事務担当者の記載はありません。収支報告書に記名・署名された会計責任者を訂正すると、松井代表と共謀した人物を“自白”することになるから訂正しなかったのでしょう。
『松心会』は別の政治団体『松井一郎後援会』と事務所の所在地が同じなので、その後援会の誰かが松井代表の共犯者だった可能性があります。しかし、松井代表はいまだに詳細な説明を行っておらず、説明責任を果たしていません。このような無責任な人物が府知事や市長だったのですから呆れます。維新の政治的体質なのでしょう。」
「身を切る改革」を掲げ躍進してきた維新の会において、常にその中心にいた松井一郎氏が、許諾を得ず勝手に署名・捺印を長年続けていたこと自体が驚きであり、その上「政治資金規正法上問題ない」と回答している。
維新の会が掲げてきた「身を切る改革」とは何だったのだろうか。
■ 鈴木祐太 (すずきゆうた)
1981年香川県で生まれ。岡山、大阪で育つ。大学在学中から貧困状態にある子どもたち、特に被差別部落や在日外国人の子どもたちへの支援に関わり、小学校講師、派遣社員などを経てジャーナリズム活動を始める。フロントラインプレス所属。
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