◆命令に服従しない者は容赦しないという意思
布告に露わになっているのは金正恩政権による「反市場」政策であるが、それは今回新たに始まったものではない。2019年には各地で個人の経済活動を抑制しようという動きが強まっていた。
そして2021年4月、中央から大号令がかかり、個人の経済活動を封じ込めよと言わんばかりの厳しい統制、取り締まりが始まった。個人食堂でさえ営むのは禁止。パンや餅などの食品、衣料品の縫製、リアカーを使った運搬などの小商いに人を雇うことが不可能になった。
これは、その年1月の第8回労働党大会で強調された「社会主義の強化」、「非社会主義・反社会主義との闘争」という方針に基づくものだった、と取材協力者たちは説明する。
2年前のこの大がかりな取り締まりは、コロナ防疫のために国内の移動や物流が制限されている最中に実行された。都市住民は商売と賃仕事の機会が減り大打撃を受ける。現金収入が激減してしまったのだ。地方都市の脆弱層の中には飢えや病気で死亡する人まで出ることになった。
今回布告を出して強力な統制に乗り出したのは、個人による物資の流通が根絶できていないことを意味する。死刑までちらつかせたのは、国家の命令に服従しない者は容赦しないという警告であり、金正恩政権の経済統制強化に対する並々ならぬ意思がそこに見える。
布告の発布との関連は不明だが、8月30日午後、両江道の恵山(ヘサン)市で9人が公開銃殺に処された。容疑は国家財産の役牛を屠畜して肉を流通させたというものであった。
◆庶民の露天小商いも登録義務付けし税徴収
それでは、実際に布告によって市場ではどんな影響が出ているのだろうか? 両江道の複数の協力者たちの報告をまとめる。
「布告が出てから、市場の周辺で物を広げて売る行為も、『市場管理所』に登録しないと一切できなくなった。市場が終わる頃に出てきて露天で食べ物を売る人たちが大勢いるが、登録していない人は、取り締まり班によって品物を全て没収される。市場でも外でも、登録されているかどうか、一日に何度も検査している」
「登録すると毎日市場税を払わなければならない。業種によって異なるが1日に250~500ウォンだ。布告まで出して取り締まるのは、国家が収益を得ようというのが目的の一つだと思う」
※日本円1円は約60ウォン。
「以前は農場員が庭などで栽培した野菜や副食物を市場に持ってきて商人に卸していたが、それすら少しでも量が多いと布告に触れるとして取り締まっている」
市場周辺の光景が目に浮かぶようだが、これらは庶民の小商いに現れている統制の一片に過ぎない。協力者たちは、狙いは別のところにあると口を揃える。
「目的は、『トンチュ殺し』だろう」 (続く)
※アジアプレスでは、中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。
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