ほとんどアスベスト(石綿)が原因とされる肺や心臓などの膜にできるがん、中皮腫による死亡者が2022年に累計で3万人を超えた。(井部正之)
◆中皮腫死の増加傾向継続
人口動態統計(確定数)から9月15日に厚生労働省が発表したデータを集計して判明した。
統計を取り始めた1995年当時500人だった中皮腫による死亡者数は20年後の2015年には1504人と3倍に増加。2021年には1635人まで増えた。2022年は1554人で若干減少したが累計ではついに3万人を突破し、計3万1402人に達した。
中皮腫死亡者数は2007年に計1万人、2015年に計2万人を超えた。それまでに要した年数は計1万人までの12年だったのが計2万人になるまで8年に減少。今回の計3万人までも1年短縮され、7年間だった。それだけ中皮腫による死亡者数の増加傾向が強まっていることになる。
2022年8月、新たに示した推計で環境省は「中皮腫死亡者数は現在引き続き増加傾向」と説明している。
ヨーロッパ諸国における被害と比較し、日本における中皮腫被害が2000年以降の40年間で約10万人に達する可能性があると推計した早稲田大学理工学部の村山武彦教授(当時)らの被害予測(Murayama et al. 2006. Estimation of future mortality from pleural malignant mesothelioma in Japan based on an age-cohort model.Amdind Med49: 1-1.)に基づいて、同省は石綿被害のピークを2030年および2034年に設定した。
そのうえで、
(1)2012年に新たな石綿製品の使用が完全禁止されたこと
(2)石綿関連疾患の一部はばく露から発症まで30年から40年程度かかること ──から、2011年に石綿を吸入し約40年後に石綿関連疾患を発症して死亡する可能性があるとして、2051年まで被害が続くと想定している。
もっとも同省の推計は石綿被害者の救済制度における基金残高の推移を試算したもので、被害者数までは含まれていない。とはいえ、少なくとも国の推計でも、「中皮腫死亡者数は現在引き続き増加傾向」であり、いまから約30年後まで被害が発生することは認めざるを得ないということだ。