◆国交省が規制せず放置
もう1つ、市の発注が不適正できちんと石綿調査がされるわけがない仕組みだったことも重大だ。 今回の工事を含む市委託の発注仕様書を確認し、「石綿」「アスベスト」で検索したが、業務仕様書の「2.11業務の安全衛生」との項目に、〈業務の実施に際し、アスベスト又はPCB含有の可能性が有る建材を確認した場合は、担当職員に報告する〉との文言が1カ所あるだけ。たまたま見つけたら報告するよう求めているにすぎず、石綿の事前調査が必要な場合が想定されていなかった。 また業務仕様書には、「2.7業務責任者」との項目に、〈業務責任者は、業務の経験、知識を有し、業務の全体を管理できる者とする。業務責任者の資格要件は特記による。なお、業務責任者は業務担当者を兼ねることができる〉との記載があり、「2.8業務担当者」には〈業務担当者は、業務に必要な知識及び技術を有するものとする〉とある。 しかし必要な資格を記載した「資格要件」には、〈調査員(建築)及び検査員(設備・防火設備)は建築基準法第12条各項に定める資格を有する者とする〉とあるだけ。今年10月から有資格者「建築物石綿含有建材調査者」による改修・解体時の石綿調査が義務づけられているのだが、その位置づけがない。 ちなみに建基法では使用中の建物における検査で石綿調査の資格要件は設けていない。石綿調査の義務もない。これは国土交通省の有識者会議で制度改正の必要性が指摘されていながら放置されており、同省が対応をサボリ続けていることに原因がある。 そうした国レベルの問題もあるが、同省がなにもしなかったわけではない。上記の改修・解体時における石綿調査を担う有資格者「建築物石綿含有建材調査者」講習制度は、もともと国交省が建物の通常使用時における石綿調査を「的確かつ効率的に把握する」ために「中立かつ公正に正確な調査を行う」資格者を育成するために2013年に創設したものだ。それから10年が経過しているにもかかわらず、政令市ですら建物の管理に活用していないのはいかがなものか。建基法の検査に義務事項として入れていない同省にも責任があるが、以前から周知されているのに、積極的に活用しない自治体にも問題があるといわざるを得ない。 市建築保全課に有資格者による石綿調査や管理が必要ではないかと指摘したところ、「所管と話をしながら検討したい」と回答した。 続いて(2)だ。今回の業務委託と類似するメンテナンス業務がほかにも存在するだろうことだ。実際に2022年2月、今回の件と同じ日に「消防局庁舎等市有建築物保全サポート業務」というよく似た委託がある。おそらくはこれ1件だけではあるまい。 同課に対応を求めると、「(今回の件が)明らかになったわけですから、発注のやりかたを考えたい」と答えた。 すでに述べたように、今回の件は札幌市だけの問題ではなく、全国的な問題である。残念ながら政令市すらこのありさま、というのが石綿をめぐる問題なのだ。ほかの自治体もぜひこれを機に改善に踏み切って欲しい。同時に、国交省は改めて法整備に踏み出すべきだろう。