◆繰り返される“素人”調査
今回の札幌市の場合は、結果として石綿が検出されなかったものの、吹き付け材が把握されないままになっていた同様の「見落とし」事案である。 こうした事例が起きるたびに再発防止が検討されるのだが、全国どこを見渡しても、素人の自治体職員ががんばる、という結論しかない。それでは同じことが繰り返されるだけだ。 じつは国や自治体の建物など公共施設は、解体まで網羅的な石綿調査がされることがない。そのため、もっとも危険性が高いとされる吹き付け石綿でさえ、見落としが珍しくないありさまだ。その原因は上記のように講習も受けていない、いわば“素人”の自治体職員による調査にある。その結果、吹き付け石綿すら見落とされる事例が後を絶たない。 札幌市はどうだったのか。 東区役所を管理する市東区市民部総務企画課は「うちには技術職がいないので、建築セクションに頼んでメンテナンスの発注をしていただいている。今回は自動ドアの調子が悪いので見てくださいと(頼んだ)」と経緯を説明する。 見落としのことを聞くと、「吹き付け材があることを認知してなかった。図面に載ってなかったんだと思う」(東区総務企画課)との見解だ。 これまでの調査については、「(吹き付け)石綿があれば管理台帳に記載するんですが、台帳になかった」と話した。何度かやり取りしているうちに、「正直、石綿の知識はまったくない」と明かした。 市においても、各施設の管理者が吹き付け石綿の調査・管理を担っており、同じ状況ということだ。東区役所だけの問題ではない。市の庁舎管理全体にかかわる問題である。 メンテナンス・補修業務の発注元である市建築保全課は筆者の取材に当初、施設の管理は「管理者がやるべき」と回答した。石綿調査の有資格者もいないという。これでは石綿の知識のない管理者による“素人”調査が繰り返されることになる。 なぜこのような対応なのか。 アメリカやイギリス、オーストラリアなど諸外国では有資格者による石綿調査が義務づけられている。 日本でも今年10月から建物などの改修・解体時の石綿調査は、有資格者「建築物石綿含有建材調査者」が実施することが労働安全衛生法(安衛法)石綿障害予防規則(石綿則)と大気汚染防止法(大防法)で義務づけられた。これは2005年7月以降、石綿則で建物などの改修・解体時における石綿調査が義務づけられたが、石綿調査の講習制度や有資格者による調査の義務規定はなく、“素人”調査が繰り返されてきた反省に基づく。 一方、建物などの改修・解体時以外、つまり建物が使用中の場合は、現在も石綿の知識ゼロの「素人」が調査してもよいとの矛盾がいまだに放置されたままだ。 本来なら国土交通省が建築基準法を改正させるべきだが、有識者会議で指摘されていたにもかかわらず、同省がその必要性を認めなかった。その結果、現在も“素人”調査による石綿の見落としが繰り返されている。