自民党の政治資金団体「国民政治協会」(以下、国政協)がゼネコンの業界団体である「日本建設業連合会」(以下、日建連)に企業献金を要請し、大手ゼネコンの鹿島建設、大成建設などから献金を受けていたことが「しんぶん赤旗日曜版」で報道された。公職選挙法は国からの工事を請け負っている企業に対し、選挙に関し献金を要求したり、献金を行なったり受け取ることも禁止している。国政協と日建連の幹部ら計18人が刑事告発された。(フリージャーナリスト・鈴木祐太)
◆大成、清水、鹿島、大林、竹中…大手ゼネコンが横並びで多額寄付
告発されたのは、国政協代表理事・会長の大橋光男昭和電工(現レゾナック・ホールディングス)最高顧問、山内隆司日建連会長(大成建設会長)、宮本洋一日建連副会長(清水建設会長)、押味至一日建連副会長(鹿島建設社長)、蓮輪賢治日建連副会長(大林組社長)ら18人。(肩書は2021年当時)
告発状によると、日建連の中核をなす大成建設、鹿島建設、竹中工務店、大林組、清水建設の国内大手ゼネコン5社は、衆議院選挙が行われた2021年にそれぞれ1800万円ずつ国政協に寄付している。
この5社はいずれも、寄付の前に国土交通省などの国の機関が発注する大型工事を受注している。一例をあげると、大成建設は21年3月16日に国土交通省が発注した「大和御所道路橿原高田ICランプ橋(AP26他)下部工事」を約9億1106万円で契約し、4月23日に国政協に寄付している。
公職選挙法(以下、公選法)では、国と「請負その他特別の利益を伴う契約の当事者である者」の国政選挙に関連する寄付行為を禁止している。
刑事告発した神戸学院大学の上脇博之教授は以下のように指摘する。
「2017年に解散総選挙があり、2020年末までに衆議院の総選挙がなかったので、2021年は解散による場合であれ任期満了による場合であれ、必ず総選挙が行われることは明らかでしたので、公選法違反の寄附の供与と受領が公選法違反になると判断し8月23日に告発しました。
日建連会員会社が国とどのような公共工事の請負契約を結んでいたのか全て調査し、国政協の収支報告書で各会社の寄附額も確認しました。国政協が受領した寄附の合計額は2億5692万円にものぼりましたので、国政協の役員らを告発しました。
寄附した会社のうち、大成建設などの5つの大手ゼネコンの寄附の金額はいずれも1800万円で日建連内では最高の寄附額でしたから、寄附した会社については、5社に限定してその会長又は社長らを告発しました」
◆「取扱注意」文書には「要請額」「目標額」「対応会社」の生々しい記述
大手ゼネコンはなぜ、国政協に寄付したのか?
日建連は、22年2月9日、「【取扱注意】一般財団法人国民政治協会への対応について」という文書を組織内で配布している。そこには、2021年の「要請額」の欄に「4億7100万円」、「目標額(実績額)」の欄に「4億円(2億5821万円)」、「対応会社数」の欄に「50社」と記載されている。
2021年に、国政協が日建連に対して企業献金を4億7100万円要請し、それを受けた日建連が加盟会社全体で4億円を国政協に寄付をするという目標を立てた。結果として、日建連は2億5821万円の寄付を50社で集めたという意味だと推測できる。
この内部文書には2012年以降から「要請額」「目標額」「対応会社」などが記載されており、国政協が日建連に寄付を要請してきたことが伺われる。
日建連のサイトには、「日建連会員93社対象調査」として国から日建連会員会社が受注している公共事業総額が公表されている。それによると、21年はなんと約2兆5239億円もの受注を受けている。
これらのデータをまとめると、日建連は加盟50社で約2億5821万円を国政協に寄付し、約2兆5239万円の公共工事を受注している。「見返り」と言っても過言ではないのではなかろうか。
◆驚愕の内部文書 「赤旗日曜版」のスクープ
さらに驚きの内部文書が「しんぶん赤旗日曜版」によって明らかにされている。
自民党が政権に返り咲いた翌年の2013年2月に、自民党から日建連に、国政協から日建連にそれぞれ文書を出している。それぞれの文書の一部を告発状から紹介する。
(自民党が送付した文書について)
『アベノミクスの「3本柱」の政策を説明し、「夏には、参議院選挙が行われます」と明記したうえで、「国政協」からの「お願い」に「御高配」を、と要求していた。』
(国政協が送付した文書について)
『「自由民主党は、…『強い経済』を取り戻すとともに『強靭な国土』の建設へと全力で立ち向かっております。」「その自由民主党を支え、政策遂行を支援するため」として、「諸般の事情をご賢察の上、何卒よろしくご協力を賜りますようお願い申し上げます。」として何と「金 四億七千壱百萬円 也」と記されていた。』
これらから、自民党と国政協が、7月に行われる参院選を明示した上で、日建連に対して寄付を要請していることがわかる。これを受け取った日建連は、これらの文書をまるで「請求書」と認識してもおかしくないのではないか。
国政協が日建連に対して送付した文書にある「金 四億七千壱百萬円 也」という金額と、
日建連の内部文書である「【取扱注意】一般財団法人国民政治協会への対応について」の2013年の国政協からの要請額は完全に一致する。
公選法では「(選挙に関して)寄附を勧誘し又は要求してはならない」と定められている。
21年に関しては自民党、国政協から日建連に対して寄付を要請した内部文書は明らかにはなっていないが、21年もこのような文書があったのではないかと告発状では指摘している。
◆自民側の要請はまるで寄付請求書
上脇教授は以下のように指摘する。
「2013年2月の自民党の文書では同年夏の参議院選挙に言及し、国政協の文書では4億7100万円という金額を明記しており、まるで請求書でした。自民党と国政協が共犯で、公選法違反の寄附の勧誘・要求(要請)をしていたのです。日建連の内部文書によると、その後も、国政協は日建連に寄附の要請をしていましたし、国政選挙のある年にはその選挙に関し寄附の要請がなされていると日建連側は受けとめたはずです。
日建連は、内部で会員会社を6つのグループに分けて各グループの寄附額も決めていました。例えば第1グループは1800万円、第2グループは900万円、と。日建連はそのことを国政協側にも具体的に伝えており、国政協は各企業に連絡することになっていたのです。ですから、衆院選の実施がわかっていた2021年と参議院選の実施がわかっていた2022年については、公選法違反の寄附の勧誘・要求罪でも国政協と日建連の各役員らを告発したのです」
今回明らかになったのは、自民党と事実上、一体化している政治資金団体「国民政治協会」が、業界団体を通じて国の公共事業を受注した企業に対して寄付を要請し、要請額には満たないものの実際に多額の寄付を受けているという癒着の構図だ。まるで公共工事を受注している企業からのキックバックを自民党が受けていたということではないか。
政党助成金を受け取る代わりに一度は廃止した企業献金。その在り方が問われている。
■ 鈴木祐太 (すずきゆうた)
1981年香川県で生まれ。岡山、大阪で育つ。大学在学中から貧困状態にある子どもたち、特に被差別部落や在日外国人の子どもたちへの支援に関わり、小学校講師、派遣社員などを経てジャーナリズム活動を始める。フロントラインプレス所属。