◆違法作業“宣言”の掲示すら
実際に再開発区域内でも石綿の不適正除去が疑われる事案が起きている。 5月に筆者らが現場を訪れた際、解体予定の建物ごとに掲示された石綿の調査結果をみると、たとえば石綿を含む屋根材が使われている建物では作業方法として、「作業場を養生シートで養生(隔離)し、湿潤化しながらバール等で除去を行う」と記載されていた。 2020年の石綿規制改正により、石綿則と大防法では石綿を含む成形板など「成形品」の除去作業は「切断等以外の方法」で実施することが定められた(同10月施行)。この「切断等」には切断・破砕・せん孔・研磨などが該当する。これにより以前から問題になっていたバールで破砕しつつ除去する、いわゆる「バール解体」が原則禁止。手作業で釘を抜いたり、ボルトやナットなどの固定具を外すなど、割らずに除去する「手ばらし」が義務づけられた。例外は「技術上困難なとき」だけだ。 屋根材の除去で手ばらしが「技術上困難」なのは、よほど特殊な事情がある場合だけだ。ところがそうした説明もない。つまり、違法な作業を自ら宣言しているとしか思えないのである。 おまけに現場の建物は2階建てで、本当に養生シートで外部への石綿飛散を防止する「隔離」をするのであれば、建物がすっぽり入るような大型のテントを設置するなどかなりの手間と費用が掛かる。車も入れない通りで本当にそこまでの対応をするのか甚だ疑問である。 同様に「湿潤化しながらバール等で除去」などと記載された建物がいくつもあった。違法工事を自ら宣言することはまず考えられないので、2020年の石綿改正を理解すらしていないのではないか。いわゆるバール解体による違法作業であることが懸念された。 こうした不適正工事は珍しくない状況で、老舗の石綿除去業者は「いまでも湿潤もなしにふつうにバールで破砕してますよ。防じんマスクもまずしてないですね」と呆れる。成形板などの除去は、石綿の除去業者が関与せず、解体業者が担うことが多い。以前からバール解体が基本になっていたことから、規制改正以後も現場作業が変わっていないとの声をしばしば聞く。筆者も複数確認しているが、全国的な状況とみられる。 すでに述べたように、再開発区域に隣接した場所での解体がまさにそうした不適正作業だった。現場を訪れた際に石綿を含む建材の破片が散乱している状況から、施工業者の20代前半とおぼしき若い現場監督に違法なバール解体であることを指摘すると、「だったら自分でやってみればいい。そんなの不可能ですよ!」と声を荒げた。 不適正工事が珍しくない現状や、関連事案における“前例”がある以上、同じことが起きかねないと考えるのは当然だろう。 6月上旬、後藤さんらと板橋区環境政策課を訪れた際に筆者がこの件を指摘したところ、区は再開発組合に確認し、「原則破断せずにバールを使用して釘等を外す『手ばらしによる除去』の主旨である」と説明されたという。にわかには信じがたいが、いずれにせよ区は「誤解を招くおそれがある」として「手ばらし」と修正するよう指導した。