◆「日歯連」購入分は法定上限超えで違法
政治資金パーティ券の購入は一団体150万円までと、「政治資金の憲法」と言われる政治資金規正法(以下、規正法)で決められている。それを国会議員が知らないはずがない。その決まりを自民党の主派閥がそろって破っていた。自民党の最大派閥である政治団体「清和政策研究会」(安倍派)をはじめ、主要5派閥の一つ「志師会」(二階派)は、政治団体「日本歯科医師連盟」(以下、日歯連)から上限の150万円を超えるパーティ券を買ってもらっていた。また、自見英子万博担当大臣が代表を務める政治団体「ひまわり会」も、二階派「志師会」にパーティ券代200万円を支払っていた。さらに、安倍派、二階派はともに政治資金収支報告書(以下、収支報告書)にその明細を記載していなかったのである。。150万の上限超えの発覚を免れるためだと見られる。このパー券不正問題で、二階俊博元幹事長、自見大臣ら9人が規正法違反の疑いで東京地検に刑事告発された。(フリージャーナリスト・鈴木祐太)
◆安倍派と二階派が上限超えパー券収入を不記載
刑事告発したのは、上脇博之神戸学院大学教授だ。
安倍派は2021年12月6日に政治資金パーティ「清和政策研究会との懇談の集い」を東京プリンスホテルで開催した。「日歯連」は、12月3日に150万円、パーティ当日の12月6日にも6万円のパーティ券を購入した。合計すれば156万円となり、150万円を超えるパーティ券の購入で規正法違反である。「日歯連」の政治資金収支報告書(以下、収支報告書)には、合計156万円のパーティ券購入が記載されている。
ところがパーティ主催者の安倍派=「清和会」の収支報告書を見ると、「12月3日に日歯連が150万円を購入した」としか書かれていない。つまり「清和会」の収支報告書だけを見ると、法律の範囲内の合法購入であったことになる。
上脇教授の告発状では、日歯連が虚偽の記載をする理由がないことから、「清和会」が12月6日に販売した6万円分のパーティ券収入を意図的に書かなかった不法な不記載だとした。そして当時、派閥代表を務めていた安倍晋三衆議院議員(故人)と事務担当者が共謀して記載しなかったのではないかと指摘している。ただし、安倍氏はすでに亡くなっているため、今回の刑事告発からは除外された。
同じく二階派=「志師会」も2021年9月24日にホテルニューオータニで政治資金パーティ「新たな時代の国会戦略」を開催。その際、9月21日に150万円、10月18日に20万円のパーティ券合計170万円分を「日歯連」に購入してもらっていた。これもまた日歯連の収支報告書に明記された事実である。当然、規正法違反である。
一方、「志師会」の収支報告書には、「清和会」と同様に150万円分のパーティ券収入があったとしか記載されていない。つまり、10月18日に販売した20万円分については記載自体がないのだ。
◆自見万博担当大臣は「派閥にパー券購入課された」
「志師会」の「150万円を超えパーティ券」問題はこれにとどまらない。
自見英子万博担当大臣が代表を務める政治団体「ひまわり会」も、10月7日に200万円のパーティ券を主催者である「志師会」に支払っていた。これも「ひまわり会」の収支報告書から確認ができる。一方、「志師会」の収支報告書には、これまた一切記載されていない。「パーティ券収入は1団体150万円を超える記載はしない」が徹底されているようだ。
刑事告発した上脇教授は次のように指摘した。
「『しんぶん赤旗日曜版』(11月19日号)の記事によると、自見事務所は200万円の支出が『寄附』だったと弁明したようですが、それが真実なら誰もパーティに参加していなかったのに収支報告書に『パーティの会費』と記載するはずがありません。虚偽の弁明でしょう」
と自見事務所の対応に疑問を呈した。
また、自見事務所は『しんぶん赤旗日曜版』(11月19日号)の質問に対して「派閥(二階派)から1枚2万円のパーティ券100枚の販売を課されたものの販売ができなかったため200万円の寄付をした」と回答している。自見大臣以外にも販売できなかった議員が同様のことをしているのではないかと勘繰りたくなる回答だ。
◆パー券不正は裏金作りの手口では?
自民党派閥の政治団体から相次いで、こうした不記載等の法律違反が見つかっていることについて上脇教授は次のように指摘する。
「150万円の上限超えの政治資金パーティ券売買と収支報告書不記載については、いずれも規正法違反として東京地検に10月に告発しました。この告発は、5派閥の政治団体が20万円超のパーティ収入の明細を記載していなかったことを告発した中の一つであり、今、各報道機関が注目して報道している約4000万円(正確には総額4168万円)の明細不記載の一部です。
もしも5派閥の各政治団体が、明細の不記載分をパーティ券の売上げ収入総額に含めていなければ、不記載分は裏金になっていたことになります。そうなると、ほぼ1年前に略式起訴された薗浦(そのうら)健太郎元議員の闇政治資金パーティと類似することになります。いずれも『しんぶん赤旗日曜版』のスクープ報道を発端にして私が告発したものです。自民党内に蔓延する裏金づくりの手口なのでしょう。極めて悪質ですから東京地検特捜部にはぜひとも刑事事件として立件し、真相を解明してほしいと思っています」
企業や団体が高額なパーティ券を購入するのは、事実上の企業・団体献金だと長年指摘されてきた。にもかかわらず、法改正はされてこなかった。今回の刑事告発では指摘されていないが、本当に購入した金額の人数分の参加があったのかという問題がある。通常、パーティ券は一人2万円で販売されている。もし、一人2万円ならば、200万円分を購入した自見大臣の「ひまわり会」は、100人がパーティに出席していなければいけないのだ。
パーティ券問題の闇は深い。政治家には説明責任が求められる。
■ 鈴木祐太 (すずきゆうた)
1981年香川県で生まれ。岡山、大阪で育つ。大学在学中から貧困状態にある子どもたち、特に被差別部落や在日外国人の子どもたちへの支援に関わり、小学校講師、派遣社員などを経てジャーナリズム活動を始める。フロントラインプレス所属。