◆新任の党、機関の下級幹部選抜にも投票実施していた
「生まれて初めて秘密投票を経験した」というA氏に、異例の方法を採った今回の選挙の背景について訊いた。
選挙ではないが、企業や機関で新任の幹部を選ぶ無記名の投票が昨年から数多く実施されていたとA氏は言う。
「2人から選んで投票する選挙は初めてだが、何も驚くような雰囲気ではなかった。なぜなら、昨年(2022年)から、単位(組織や機関)に問題が生じたり、責任者の仕事に不正あったりすると、すぐ別の人間に変えるようになったのだが、その際に投票を何度もしてきたからだ。ただ、今回は代議員の選挙なので、仕事がうまくできる人がとうかという観点は人々に生まれたと思う。
今は幹部に厳しい世の中になった。以前のように、賄賂を受け取る一方で住民を怒鳴りつけるようでは、幹部は務まらない。常に先頭に立つことを求められる。特に党幹部の場合は、毎日朝から模範的な行動を示さなければならない。
幹部に問題があるとみなされると、生活総話(週1回すべての組織で行われる反省会)の時に、その幹部に対する申訴の投書内容が公開される。それによって解任や『革命化』を宣告することもある。そして無記名の投票で新たに2~3人を幹部に推薦する投票を行う。その後で該当者の身元照会や調査を経て選ばれる。」
※各職場や組織などには、数年前から幹部の不正や犯罪や問題行動を訴える申訴箱が設置され、無記名で投書できるようになった。「革命化」とは強制労働や思想学習を通じて過ちを矯正させる労働党による処罰。刑事罰ではない。
◆住民たちの反応は?
「企業の職場長や機関の責任者でも、問題が生じれば同様に新しい人選を投票でやるようになった。しかし、上部が何もやってくれることがないのに、(職場や組織が)うまくいかなければ幹部たちに責任を負わせる構造は同じだ。上部が勝手に幹部を選んでいると、上部に対して住民たちは不満を向けるから、『お前たちが選抜した幹部なのだから、ちゃんと言うことを聞け』というやり方なのだと思う。
誰かが解任されて、(新しく)幹部を選抜する時も、その人の忠誠心、過去の履歴、勲章、成果を示して無記名投票で賛成、反対させる。また過去の法違反行為を訴える制度ができて、上部が選んだ人員が落ちる場合も多かった。
今回の代議員選挙は、単に2人を(選挙)当日に示して投票しろと言っただけのものだ。どうせ代議員なんて、手をあげたり下ろしたりするだけのロボットのようなものだから、代議員選挙なんかより、職場に能力がある人がいる方を選ぶ方が重要だと人々は考えている」
朝鮮中央通信が8月31日に報じたところによると、北朝鮮政府は30日に最高人民会議常任委員会を開催し、各級人民会議代議員選挙法の改定を採択した。この場で地方選挙での複数から候補者を投票で選ぶことが決められた可能性がある。
※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。( 続く 2へ >> )
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