◆園児らが石綿ばく露の可能性
そもそも今回明らかになったのは危険性の高い吹き付け石綿が見落とされ、しかもその一部が天井からはがれ落ちたという飛散事故である。園児らが石綿を吸ってしまった可能性のある重大事案だ。
ところが市の認識が甘く、対応が鈍い。 筆者が取材した段階で事故から約1カ月半が経過しているにもかかわらず、落下した吹き付け石綿の量は「ごくわずか」(同)というだけで面積や量も不明。おまけに交換した蛍光灯の数や吹き付け材に何カ所触って落下させたのかといった基礎的な事実関係すら確認できていなかった。
吹き付け石綿の落下事故後の清掃について聞くと、「職員が掃いて捨てています」(同)と回答。ぬれぞうきんで拭き掃除もしたのか尋ねると、「おそらく拭き取りもしていた」(同)というので、事実か改めて問うと「確認をとっていない」と認めた。
仮にほうきで掃いただけの場合、むしろ石綿をまき散らした可能性が高い。園児らが出入りすれば、少しずつ石綿を吸わされていてもおかしくない。 市によれば、現場の立ち入り禁止を決めたのは10月26日夜。翌27日から当面の間、保育場所を別の施設に変更した。事故後、同25~26日の2日間は遊戯室を園児らが使用していた。しかも廊下のようになっていて使用頻度が高いという。吹き付け石綿の落下量しだいではあるが、少なくとも2日間は園児らのばく露が懸念される状況だったといわざるを得ない。
結局市はその後、天井にある吹き付け石綿の除去を決め、現場での保育を再開しなかった。これは運が良かった。実際には安全確認ができていない以上、再開していたら園児らの石綿ばく露がさらに増えた可能性があったからだ。
今回の件では、もう2つ重大な問題が放置されている。 1つは、吹き付け石綿の調査が適切にされないまま放置され、園児らの石綿ばく露も見落とされていたことだ。 市によれば、石綿含有の基準が重量の1%超だった2005年に天井の吹き付け材を採取して分析したが、不検出だった。翌2006年9月に重量の0.1%超に強化されたが、それ以降は分析調査していなかった。
その結果、実際には吹き付け材に石綿が含まれていたにもかかわらず見落とされることになった。2005年7月に施行された労働安全衛生法(安衛法)石綿障害予防規則(石綿則)により、建物に吹き付け石綿があり、損傷・劣化などで石綿などの粉じんを発散させ、労働者がばく露するおそれがある場合、除去や囲い込みなどの措置を講じる義務(第10条)が設けられた。また2006年9月以降はそこで働く労働者には防じんマスクや防護服などを着用させなければならない規定も施行された。