政治団体「清和政策研究会」(以下、安倍派)が2018年から2021年の政治資金パーティの20万円を超えるパーティ券収入を記載していなかった問題で、歴代の安倍派の事務総長のうち松野博一官房長官、下村博文元文科大臣、西村康稔経済産業大臣の3人に対する告発補充書が8日付で東京地検に送付されたことが分かった。(フリージャーナリスト・鈴木祐太)
◆歴代事務総長が実務を取り仕切っていたはず
告発補充書を東京地検に送付したのは上脇博之神戸学院大学教授。
これまで一連の安倍派のパーティ券不正問題で刑事告発されていたのは、該当期間に会長だった細田博之元衆議院議長(故人)と代表兼会計責任者及び事務担当者だったが、安倍派の実務を取り仕切っていたのは歴代の事務総長であり、細田氏と共に政治資金収支報告書(以下、収支報告書)の記載方針を決定する立場にあったとして、新たに下村元大臣、松野官房長官、西村大臣の3人を被告発人に加えたとしている。
下村元大臣は2018年、松野官房長官は2019年、2020年、西村大臣は2021年の収支報告書に関して、事務総長という立場で関わっていた。
安倍派は2018年から20年まで東京プリンスホテルで開かれた政治資金パーティ「清和政策研究会との懇親の集い」において、20万円超のパーティ券を購入した多数の政治団体からの収入の明細を収支報告書に記載していなかった。会長だった細田氏ら3人が東京地検に政治資金規正法の不記載にあたるとして、2022年11月9日、同月16日に刑事告発されていた。その後、21年分の明細不記載については23年10月13日に追加告発された。
◆「検察は事務方だけでなく政治家も立件を」
今回、告発補充書を送付した理由について上脇教授は次のように指摘する。
「告発から1年が経過して突然大きく報道されるようになりました。東京地検特捜部が私の告発を捜査しているとの情報を報道機関がつかんだからです。そして報道がさらに過熱し始めたのは、安倍派でパーティ券販売のノルマを超えて販売した分が所属議員にキックバックされ、1億円超の裏金が作られ、特捜部が立件を視野に捜査していると朝日新聞が報じたからです。
私は、20万円超のパーティ収入明細不記載を告発する告発状の最後に、裏金作りがされている可能性があるとしてその捜査を求めていました。現在その通りになっています。特捜部は捜査を尽くして事務方だけではなく政治家も立件してほしい。そのため安倍派の実務を取り仕切っていた歴代事務総長3名を、これまでの告発の被告発人に加える旨、告発補充書を特捜部に送付したのです」
◆パー券不正可視化のきっかけは「赤旗」のスクープ
連日報道される安倍派をはじめとする自民党5派閥のパーティ収入明細不記載問題。昨年11月、新聞「赤旗」日曜版のスクープ報道が刑事告発につながった。筆者はそれを追って取材を続け記事を書いた。だが今年11月に読売新聞が報道するまで大きく報じられることはなかった。今回告発された政治家たちはもちろん、多くのメディアも「政治とカネ」の問題が軽視してきたように思う。
カネによって政治が捻じ曲げられていないか、有権者の「一票」がカネによって平等性が失われていないかといった民主主義の根幹に関わる大きな問題である。今回の事件に誰が関わっていたのか、どのようなカネの流れだったのか、真相解明も重要であるが、今回の事件をきっかけに、政治家、メディアだけでなく、多くの人が「政治とカネ」の問題を考え、法律と制度を変えていくきっかけにすべきだと思う。
■ 鈴木祐太 (すずきゆうた)
1981年香川県で生まれ。岡山、大阪で育つ。大学在学中から貧困状態にある子どもたち、特に被差別部落や在日外国人の子どもたちへの支援に関わり、小学校講師、派遣社員などを経てジャーナリズム活動を始める。フロントラインプレス所属