(参考写真)平壌市の寺洞区域の公設市場で女性が魚とカニを売っている。海のない平壌に個人の流通業者が運んだものだと見られる。2008年12月に撮影アジアプレス。

アジアプレスでは11月末から12月初旬にかけて、漁業の現況について北朝鮮国内で調査を行った。コロナパンデミックのために出漁もままならなかった水産業は、現在も当局の規制、燃料の高騰で不振が続いていることを前回報告した。連載の2回目は国内の水産物の流通について報告する。金正恩政権の経済統制によって個人や零細業者の流通が打撃を受けている(カン・ジウォン/石丸次郎

<北朝鮮内部調査>水産業は今どうなっているか(1)コロナと資源減で打撃 金政権の統制強化で没落した漁民も

◆調査概要

あらためて調査の概要を記しておきたい。咸鏡北道(ハムギョンプクド)、両江道(リャンガンド)に住む取材協力者が、(1)日本海側の漁港の状況、(2)水産物の輸送と流通、(3)各種海産物の販売価格─の3点について行った。国内の移動統制が厳しく、取材協力者たちは直接漁港のある現地に赴くことができず、漁業と水産物流通に携わる業者に国内電話で話を聞くとともに、協力者の居住地の水産物商人と会った。情報が得られたのは咸鏡北道の清津(チョンジン)と金策(キムチェク)、明川(ミョンチョン)郡、咸鏡南道の咸興(ハムン)。西海岸の黄海については十分な調査ができなかった。 

◆コロナによる移動・流通規制

コロナパンデミックが始まった2020年1月以降、北朝鮮当局は接触による感染拡大を防ぐため厳しい移動統制を実施した。道路には既存の警察、軍、保衛局(秘密警察)の検問所に加え、「防疫哨所」が数多く設置された。

人とモノの移動を封じ込める強引なやり方だった。これは地域間の物流に大きな打撃を与えた。運送を許されるのは、ほぼ公的機関や公的な承認を受けた貿易会社、行政の物資流通機関である商業管理所に限られた。

パンデミック前まで盛行していた個人がトラックなどの自動車を使って人やモノを運ぶ「サービ車」という輸送形態は、大打撃を受けた。

(参考写真)荷台に大勢の人を載せる「サービ車」。商売人が荷物を運ぶためにも利用した。2013年3月に平安南道の平城市で撮影アジアプレス

◆かつては個人の加工・流通が大盛況だった

東海岸の街では、水産業者が獲ってきた魚やイカなどの海産物を、港周辺の住民が卸してもらって乾物、塩漬けなどに加工し、それを背嚢に詰めて直接都市に運んだ。また仲買業のトンチュ(新興富裕層の業者)が住民たちから大量に買い集めてトラックで都市の市場の商人に販売した。清津(チョンジン)など東海岸の都市は、イカ漁の季節は大賑わいだった。

だが、こんな光景はほとんど消えてしまったと、調査した協力者は伝える。「個人が水産物を漁港から自動車を使って運ぶのはほとんど無理だ。荷を没収されることもある」という。

このような物資流通規制は、コロナ防疫が緩和された後に一層強化された。金正恩政権が経済の国家統制原則を徹底させる政策変更を行ったからだ。

8月初旬、金正恩政権は突然、物資の流通を国家の統制管理下でのみすることを命じる布告を出した。個人が物資、食糧を勝手に運搬、保管、価格設定してはならないと明記された。必ず国営の流通網を通せというわけだ。情状が厳重な違反者は死刑に処すとも記されており、個人の商行為を断固として統制するという強い国家意思が露わになっている。

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