◆コロナ緩和後も漁業は大苦戦

「最近出漁しているのはほとんど水産会社と機関傘下の水産事業所の中大型船だ。漁業協同組合や『個人』の小型船は制約が多くてなかなか漁に出られない」

取材協力者が話を聞いた東海岸の水産業者はそう口を揃えた。特に「個人」の小型船は、そもそも出港するための手続きが、非常に複雑で厳しくなったという。船主、船員らは居住地の人民班、安全局(警察)、保衛局(秘密警察)の承認を受けなければならない。船が係留されている港湾への出入り口には軍の警備隊の検問所があり、承認書類を見せないと船に触ることもできない。

近海の漁業資源の激減の影響も大きい。

「中国がトロール船(底引き網船)で小魚まで全部獲っていくため、近海には魚がめっきりいなくなった。遠海に出なくてはならないが、木造小型船は、過去に海難事故が多発したため出漁を強く規制している」

協力者は、漁業者たちのこんな言葉を伝えてきた。北朝鮮政府は外貨稼ぎのために自国EEZの漁業権を中国の漁船に販売してきた。これは国連安保理の経済制裁違反である。目先の利益を追ったことで近海の水産資源が激減してしまったわけだ。

海難事故といえば2016~2018年に相次いだ北朝鮮漁船の日本沿岸への漂着が思い浮かぶ。船からは無残な死体が数多く見つかり世界中で報じられた。体面が傷ついた金正恩氏は、2018年末に小型船の遠海への出漁を規制せよと直接指示を出している。付記すると、小型漁船の出港制限には海路での脱北を阻むという目的もあると見られる。

「個人」運営の漁業者たちの中には経営破綻したケースが少なくないという。

「かつて羽振りの良かった『船主』の中には、借金に苦しみ『コチェビ』(浮浪者)同然になってしまった者が多い。出漁できない漁民たちは、釣りや潜水で魚貝を獲って凌ごうとしているが、成果は乏しいそうだ」と協力者は伝える。

◆漁具、船の装備の不足に燃料費の高騰が追い打ち

国際的な燃油価格の高騰で、機関傘下の水産事業所も苦戦しているようだ。

「上部は機関が燃料を準備してくれるわけではないので、とれた水産物を売って燃料を購入するしかない。遠海にでると収支が合わないことが多い」

北朝鮮の中大型船の多くは、中国などの外国の中古漁船を購入したもので老朽化が著しい。装備や部品を更新する余裕がなかったり、故障しても修理ができず出漁できない船が少ないという。

また機関傘下の水産事業所では、人民軍や育児院、中等学院などの孤児院向けの副食物用の漁獲が課題(ノルマ)になっていて、重荷になっているという。(続く2 >>

※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。

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