◆監督署も「測定必要」と指摘
こうした状況は法令違反の可能性があり、市も認識している。2023年8月、筆者は次のように報じた。
〈そうした有害性の高さから、労働者保護を目的とした労働安全衛生法(安衛法)の石綿障害予防規則(石綿則)では、吹き付け石綿が劣化・損傷し、石綿などの粉じんを飛散させて、労働者が吸ってしまうおそれがある場合、除去や囲い込みなどの対策を講じるよう事業者に義務づけている(2005年7月の施行時から存在。2014年3月改正で保温材や断熱材など追加)。共用廊下に吹き付け石綿がある場合には建物貸与者にも同様の義務がある。損傷・劣化した吹き付け石綿がある場所での作業はそれほど危険なのである。
2006年8月の石綿則改正(同9月施行)により、吹き付け材が損傷・劣化してばく露しかねない場所で労働者を働かせる場合、専用の防じんマスクや防護服の着用が義務づけられた。つまり、吹き付け材の3割近くが劣化し落下が相次ぐ状況であれば、本来なら市場西棟にいる人たちは除去作業員と同じように、専用の防じんマスクや防護服を着用して働く必要があったことになる。
筆者の取材に対し、市は吹き付け材の落下時や火災時における石綿飛散の可能性が高いことを認めた〉(2023年8月1日アジアプレス・ネットワークなどに掲載の拙稿「大阪市・中央卸売市場でアスベスト飛散“隠ぺい”か 報じられない問題の本質」)
今回の落下事故では、吹き付け石綿が天井裏から脱落して落下した以上、「損傷、劣化等により石綿等の粉じんを発散」させたことは間違いない。さらに「労働者がその粉じんにばく露するおそれがある」場合、除去などの対策が義務づけられている。つまり、そうした場所で働くことは基本禁止であり、やむを得ない場合は防じんマスクなどの着用により、石綿ばく露を防止しなければならないことが石綿則第10条で定められている。
実際に石綿飛散があった以上、現場を開放するには清掃が適切で、それ以上の飛散がなく、労働者がばく露するおそれがないことの確認が必要になる。当たり前のことだ。
そのために必要なのは、(1)清掃が適切で石綿の残存がないことを有資格者による徹底した目視検査で確認する、(2)空気環境測定で石綿飛散がないことを裏付ける──との安全確認である。
(1)の石綿の残存がないことを調べる有資格者による目視検査は、吹き付け石綿などの除去作業において石綿則だけでなく、住民保護を目的とした大気汚染防止法(大防法)でも義務づけられている。また(2)の作業完了後の空気環境測定は法令上の義務ではないが、全国8~9割の自治体が採用しているという国土交通省の「標準仕様書」で位置づけられ、公共発注の吹き付け石綿などの除去工事では常識である。大阪市の発注仕様書でも同様だ。